混同に注意したい、目的の異なる2種類の学習評価

前回は、学習評価と新学習指導要領の関係や、学習評価とよりよい授業づくりとのつながり、そして、働き方改革との両立の考え方などについて、お話ししました。今回は、評価の方法について、具体例を交えながらお伝えしていきます。

適正に評価したいのにうまくいかない、これでよいのか分からないといった先生方の声をよく耳にします。その主な原因の1つが、「形成的評価」と「総括的評価」の2種類の学習評価を混同していることが挙げられます。

端的に表現すると、形成的評価とは指導のための評価で、総括的評価とは評定のための評価です。

◯形成的評価……指導を改善するための評価。具体的な学習活動において、子どもの姿を見取り、指導改善につなげる。学習活動の終了時だけでなく、学習活動の最中にも行う。特定の時点ですべての子どもに対して評価活動を行うことは必須ではない。

◯総括的評価……評定のための評価。単元等で育成を目指す資質・能力が顕著に表れる場面で、すべての子どもに対して評価活動を行うが、すべての時間で行う必要はない。

評定のための総括的評価を毎時間行おうとしたり、指導改善のための形成的評価を年に1回しか行わなかったりすると、バランスが悪く、適正さや効果に欠ける評価になってしまいます。両者の違いを理解し、評価の方法とタイミングを使い分けることが大切です。

そのためのポイントは、「言語化」です。いつ、何を、どのように評価するのかを、子ども自身や保護者も含め、評価の関係者が理解できる形にして、言葉で可視化しましょう。「いつ」、「何を」、「どのように」のうち、最上位にくるのは「何を」です。それが評価規準(英語ではcriterion:クライテリオン)です。

前回お話ししたように、従来は学習指導要領と評価の観点が一致していなかったこともあり、あいまいな評価規準が設定された例を多く見かけました。思考力を測る際の規準は「真剣に考えている」、表現力を測る際の規準は「分かりやすく伝えている」と記述してきた先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。「真剣に」「分かりやすく」の捉え方は教師によって異なり、評価にブレとあいまいさが生じます。より具体的に、シャープに言語化するようにしましょう。

言語化する際は、学習活動や学習場面において、特定の行為となって表れる子どもの姿が、どのような資質・能力と連動している(ことを期待する)のかを明示することが非常に重要です。

評価規準では、行為する子どもの姿と
資質・能力のつながりを明示する

評価規準を言語化する上で私がお勧めするのは、

〜について/〜において、……学習対象・学習活動・学習場面
〜しながら/〜して、  ……資質・能力の主要部分
〜している       ……子どもの行為

といったフォーマットの利用です。

具体例として、「思考・判断・表現」の評価規準の例を紹介しましょう。「総合的な学習の時間」で、河川の環境問題について探究する学習活動(現地調査含む)を考えます。

「思考・判断・表現」の評価規準は、

「〇〇川の環境の変化について、水質調査の結果と踏査活動の結果を関連づけて、水の汚れの問題を見つけ出している」

と設定できます。

教師は、子どもの行為する姿を見取り、評価しますから、評価規準における資質・能力の表記部分には、「水の汚れの問題を見つけ出している」といったような子どもの姿を示します。そして、その姿が、どのような知識が活用されたり、発揮されたりしているのかを、「水質調査の結果と踏査活動の結果を関連づけて」と具体的に示します。

実際の授業では、水質調査と踏査活動でのデータを関連づける学習活動を設定することを意味します。単に、水の汚れの問題を見つけ出していけばよいというわけではなく、水質調査という量的なデータと踏査活動による観察という質的なデータの2種類のデータを関連づけて思考し、その結果として、川の汚れが河川の形状や生活排水の流入と関係していることを問題状況として見つけ出す――そのような授業を計画・実現することで、期待する資質・能力(ここでは主に思考力)が育成されるのです。

思考力、判断力、表現力等の育成には、思考ツール(*1)を積極的に活用するのがよいでしょう。学習指導要領や解説では、理由づける、順序立てる、推論する、変換するなど、20種類程度の考えるための技法(思考スキル)の習得を求めています。思考ツールを授業で使用することを通じて、子どもたちの思考スキルが高まり、思考力、判断力、表現力等が育成されるでしょうし、評価も行いやすくなるでしょう。

参考文献:田村学著『学習評価』(東洋館出版社)

*1 頭の中で考えていることを、分類・比較・関連づけ・順序立て・構造化などをして、整理・可視化するためのツール。ベン図、ステップチャート、クラゲチャートなど多数ある。

スクール・ポリシーと評価の3観点が
ダブル・スタンダードになっていないか?

今後は、各学校が独自に育成を目指す資質・能力を明確化する動きが広がっていくでしょう。実際、既に高校では、スクール・ポリシー(*2)を策定する動きが義務づけられています。それらと学習評価をどのようにひもづけるのか、各学校が真剣に検討していかなければなりません。両者が異なる記載で並立していては、よりどころが複数存在して混乱しますし、評価の教師への負荷もかかるからです。

そうした事態を回避するためには、各学校で育成を目指す資質・能力(以下、「〇〇力」など)と評価の3観点を整理してつなげることです。どちらかを他方に重ねていくのがシンプルで分かりやすいかと思います。各教科等は3観点で評価するため、その変更は難しいですから、現実的には、3観点の基となる資質・能力の3つの柱(知識・技能、思考力、判断力、表現力等、学びに向かう力、人間性等)をベースに、「〇〇力」を対応させていくのがよいでしょう。資質・能力の3つの柱と「〇〇力」を照らし合わせて両方にあてはまるものが、その学校で最重要の指導の資質・能力となります。もし、「〇〇力」にはあるが、各教科の評価規準では見えにくいものがあれば、総合的な学習の時間に組み込み、重視するようにしていくとよいでしょう。

*2 各学校における教育活動の基本方針で、育成を目指す資質・能力に関する方針、教育課程の編成及び実施に関する方針、入学者の受け入れに関する方針の3つから成る。

終わりに
〜田村先生からのメッセージ〜

学習指導要領の改訂で、より適正な学習評価を行うための素地が固まりました。今は、その具体的な方法を試行錯誤する時期だと思います。これまでは、教師個人にとどまっていた実践を、他の教師と共有してみたり、ICTを活用して工夫してみたりしてください。また、評価規準も、最初から完璧なものをつくろうとせず、暫定版でもよいので、運用しながら更新していくことが重要です。評価規準をつくる際は、多くの教師の視点を入れるとよいでしょう。1人でつくったものは主観が少なからず入ってしまう恐れがありますが、複数の教師が議論しながら共通認識を図っていくことで、客観性や妥当性が高まっていきます。そうしたプロセスを経ることで、子どもの変容という最高の費用対効果が得られるはずです。

ご案内:田村先生がご講演されるイベント

2022年7月31日 13:00~17:00
國學院大學教育実践フォーラム
新しい教育課程の基準とこれからの教育・保育
~ 社会に開かれた教育課程 ~
(オンライン形式)
https://www.kokugakuin.ac.jp/event/298164

2022年8月6日 13:30~16:30
NITS・AL連絡協議会 コラボ研修 in kyoto 2022
(オンライン形式)    ▼詳細はこちら

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田村学(たむら・まなぶ)

國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 教授

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