探究の喜びや苦労を仲間と共有し、
次なる問いに向けて動き出す
2026年3月に開催された「ベネッセSTEAMフェスタ2026」。ポスターセッションの様子をレポートした前編に続き、後編ではワークショップや代表チームによるポスター発表、そして閉会式の模様をお伝えします。
同世代の参加者同士が、探究の試行錯誤を語り合う
■ワークショップ
ポスターセッション終了後は、参加者と社会人サポーターが車座になり、探究を振り返るワークショップが約40分間実施されました。
振り返りの中で多く聞かれたのは、テーマ設定の重要性についてです。「目的と展望を最初に明確にしておくことが、活動全体の広がりと深さに直結すると分かった」という発言からは、探究活動のすべてのプロセスを経験したからこそ気づいたことがあるとうかがえました。アウトプットの難しさについて口にする生徒も少なくありませんでした。「知識を深めることは楽しかったが、実際に形にしていく段階では苦労の連続だった」「自分の考えを相手に分かりやすく伝えることの重要性と難しさを実感した」といった声が複数の生徒から聞かれました。
他者と関わることで生まれる発見の意義についても語られました。「自分の知らないことを知っている人と話したり、論文を読んだりすると、世界がどんどん広がっていく感覚があった」という生徒の発言に対し、多くの生徒が共感していました。一方、個人で探究に取り組んだ生徒は、「今日のフェスタのような場があることで、自分の探究に対して多くの人からフィードバックをもらって視野を広げることができた」という声もありました。
ワークショップには社会人サポーターも加わりました。専門的な知見や社会での経験を豊富に持つ大人の視点が加わることで、生徒同士だけでは生まれにくい問いや気づきが引き出されていました。
参加者全員に見てほしい!
代表チームが全体に向けてポスター発表
■ポスターセッション
参加者全員が大教室に集まり、社会人サポーターによって選出された4チームがポスター発表を行いました。テーマの立て方や探究のプロセス、ポスターのまとめ方などを総合的に評価した上で、「参加者全員にぜひ見てほしい」という観点で選ばれたチームです。
代表に選ばれたのは次の4チームです。
●メイカー部門:昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校 プラレールを速くしたい〜「暴走プラレール!」
●アカデミック部門:自修館中等教育学校 ダンゴムシ「ダンゴムシの交替性転向反応と角度の実験」
●アカデミック部門:文京学院大学女子中学校・高等学校 こいでよこい「アイドルマーケティングを通じて明らかになるファンコミュニティの存在意義と心理的効果〜Snow Man推し活における参加動機と感情的報酬の分析〜」
●アカデミック部門:豊島岡女子学園中学校・高等学校 Gray「日本のパトリオティズムの未来」
プラレールを分解・改造して飛躍的な高速化を実現
昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校のチーム「プラレールを速くしたい」は、アラブ首長国連邦のアブダビにある世界最速のジェットコースターの映像を見て高速車両に興味を持ったことをきっかけに、プラレールの速さを追求しました。
ギアの除去やモーターの交換、電圧の増加などを段階的に改造し、速度の計測を重ねました。初期状態では速度0.22m/sだったのが、ギア除去によって約3倍、モーター交換で約5倍の速さになり、両方を組み合わせることで初期速度の約18倍を達成。さらに、レールと車輪の接触面の摩擦に着目し、やすり加工したレールを使用することで、最終的に4.35m/s(時速15.7km)という自転車程度の速度を出すことに成功しました。その成功のポイントについて、チームは「個人での研究に限界を感じ、『メイカーフェア』に参加し、『東京大学プラレーラーズ』に相談したことで、改造の着眼点が変わり、高速化が実現しました」と、外部との連携が探究の鍵だったと語りました。
社会人サポーターは、「ポスター発表で実物が走る様子を見て、その速度に驚きましたが、それが今回のような対面イベントのメリットと感じました。実際のものを扱うところに工学の面白さが詰まっていました」と、リアルな場での実演ならではの価値を評価しました。
ダンゴムシは、どんな条件でも同じ方向に進むの?
自修館中等教育学校のチーム「ダンゴムシ」は、「障害物の角度によってダンゴムシの方向決定はどう変わるか」という問いを立て、実験で検証しました。ダンゴムシなどの一部の節足動物や無脊椎動物は、障害物に連続してぶつかった時、左右交互に規則的に曲がる方向を変えるという「交替性転向反応」が存在しますが、道の先にある壁が左右どちらかに傾いている場合など、障害物の角度との関係は不明な点が多かったからです。
チームが行った壁の角度を変えられる分岐装置を使った実験では、「角度は方向決定に関係している」という結果が得られました。続いて、交替性転向反応が起こっている状態で角度の付いた壁が現れたケースを調べる統合実験では、「ダンゴムシは角度よりも交替性転向反応を優先する」という結果が出ました。同チームは、「今後は、成長段階や環境によって交替性転向反応がどう変化するかを探究していきたい」と、さらに探究を深めていきたいと語りました。
社会人サポーターは、「交替性転向反応は、世界中の研究者が研究しているテーマであり、未解明のテーマがあることに気づいた点がまず素晴らしいと思いました。条件を変えたときの反応の変化についても様々に考えていて、未来につながる研究だと感じました」と、探究の広がりの可能性を指摘しました。
「推し活」の心理を「受益」と「貢献」の循環にモデル化
音楽視聴環境のサブスクリプション化によるCD市場の縮小にもかかわらず、ミリオンセラーを連発している男性アイドルグループ「Snow Man」に着目し、文京学院大学女子中学校・高等学校のチーム「こいでよこい」は、「なぜファンは熱狂的な支持を維持し続けるのか」という問いを立て、ファンコミュニティの行動原理を分析しました。
動画へのコメントを収集・分類し、ファン行動のパターンを質的に分析した結果、ファンの行動は「受益(コンテンツの享受)」と「貢献(購買・応援)」が循環する構造として整理できるとし、さらに、その循環が何度も回ると、ファンは単なる消費者からグループの価値を守る存在へと転換していくというモデルを提示しました。「そのプロセスこそが長期的な人気を支えている」と、同グループのファンとしての熱量もありつつ、探究の成果を述べました。
社会人サポーターは、「自分の好きなことを出発点とし、データ分析を踏まえて、自分がなぜ好きなのかを可視化していました。単なるアイドル研究ではなく、データサイエンスのレベルまで到達している、深い研究でした」と、チームの分析力を高く評価しました。
「愛国心」とは何か—明治から戦後まで日本史を縦断する
豊島岡女子学園中学校・高等学校のチーム「Gray」は、「日本のパトリオティズムの未来」をテーマに探究に取り組みました。戦時中を舞台とした作品に頻出する「お国のために」というフレーズの背景にある「愛国心」という概念を、明治から戦後までの歴史と教育の変遷を追いながら分析しました。
愛国心を、「パトリオティズム(故郷を愛する心)」と「ナショナリズム(国家・民族の発展を志す)」の2つに整理した上で、明治・大正・昭和戦前・昭和戦後の各時代について定性分析を行いました。明治時代には欧米列強に追いつくための国家的手段として愛国心が育成され、大正時代の自由教育を経て、昭和戦前には軍国主義と結びついたと示しました。昭和戦後は、GHQの占領下で戦時歌謡が修正・削除される一方、思想家による再解釈が進んだと説明しました。その上で、「今後の愛国心は、負の歴史を含めて多層的に捉え、そして個人の尊厳と多様性を認めることが必要です。そのために、共存と公共性を重視すべきと考えました」という結論を示しました。時代ごとの変容を丁寧に追うことで、愛国心という概念の多面性に迫りました。
社会人サポーターは、「センシティブなテーマに勇気を持って取り組み、しかも非常に中立的な立場で分析していました。パトリオティズムとナショナリズムという2つの概念を知ることで考え方が大きく変わります。高校生がそこまで深く探究したことに熱意を感じました。一生のテーマになるのではないでしょうか」と、テーマの選択と分析姿勢を称えました。
閉会式
東京都立大学の福田公子准教授は、「探究がうまくいっている人もうまくいっていない人もいましたが、全員が探究の途中にあり、面白い芽を見つけたという段階です。ここまでのデータをとことん愛し、『こんな反論ができるかも』といった視点から考え抜き、自身の探究を磨いていってください。そうすることで一歩ずつ前に進むことができるはずです」と、探究をさらに深めるための視点を示しました。
北陸先端科学技術大学院大学の小泉周副学長は、AIの時代に人間の知をどう大切にするかという視点から、参加者に語りかけました。「人間の知とは何か。まずはこれが好きだという愛であり、そして良き生存のために必要なものであると思います。一人ひとりが幸せに生きることも大事だし、社会や世界の全体をよくしていくことも重要です。そのための知を磨いていくために必要なのが、皆さんが取り組んでいる探究学習だと思っています」と締めくくりました。
最後に、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長が閉会の言葉を述べました。小村センター長は、フェスタを始めた頃の思いを振り返りながら、今後の社会の変化について言及しました。「AIが登場したことで、これから学びや研究はどんどん変わっていきます。信じられないほどの速さで、研究者の仕事も大きく変わっています。しかし、コンピューターは『How』は考えられても、『Why』は考えられません。そこにどんな意味があるのかを判断して取り組むのが人間です。そうしたことを考えるきっかけが、皆さんの発表の中にありました」と、フェスタの意義を総括しました。そして「これからも、よい人間や社会とはどういうものだろうと、皆で考える場にしていきましょう」と参加者に呼びかけて、フェスタは幕を閉じました。
(編集後記)
ベネッセSTEAMフェスタは今年で15回目を迎えました。会場となった昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の各教室に並んだポスターには、生徒の試行錯誤の軌跡が詰まっており、圧倒的な熱量が感じられました。
発表内容を改めて見ると、自分の身のまわりにある問いから探究を始めたチームもあれば、社会や世界に向けて問いを立てたチームもありました。いずれも、本気で問いと向き合ってきたことが伝わってくる発表でした。成果の大きさや完成度よりも、それぞれの問いへの向き合い方が評価される場だからこそ、全国から多様な探究が集まり続けるのだと思います。今後もフェスタはさらに活動内容を発展させながら、来年以降も続いていきます。全国の中高生、先生方、そして探究を応援するすべての方々と一緒に、この場を盛り上げていければと思います。
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ベネッセSTEAMフェスタ運営事務局












