

柏木 崇
VIEW next編集部 統括責任者
1999年にベネッセコーポレーションに入社し、進研ゼミ高校講座の国語教材の企画・編集を担当。その後、高校1・2年生向けの国語・数学教材の企画・編集を経て、2012年に現・ベネッセ教育総合研究所に異動し、『VIEW21』高校版の企画・編集を担当。13年に編集長、18年に統括責任者となり、21年から現職。年間100名以上の学校教師を取材し、現場の実践を始めとする教育情報や学校教育のあり方を問うオピニオンを発信している。経済・金融教育にも関心があり、プライベートではその普及活動に力を入れている。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者。
【関連する時事通信ニュース】授業時数、学校裁量で調整=学習内容精選、好き・得意育む―次期指導要領審議まとめ・文科省
2024年12月に文部科学大臣から中央教育審議会に諮問された学習指導要領の次期改訂に関する審議まとめの素案が、26年8月31日に公表された。本まとめは、25年9月の論点整理で示された、①「主体的・対話的で深い学び」の実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保の3点を次期学習指導要領に向けた検討の基盤として、総則・評価特別部会や各教科等のワーキンググループが約1年にわたって議論してきた個別の改善事項の具体を取りまとめたものだ。本稿は、いよいよ全貌が見えてきた次期学習指導要領のポイントを確認していく。
まず、次期学習指導要領は、「主体的・対話的で深い学び」の実現を通じて、自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手を育成するために、「『好き』(興味・関心)を育み、『得意』を伸ばす」ことと「当事者意識を持って、自分の意見を形成し、対話と合 意ができる」ことが相互に有機的にかかわり合い、両輪として高まっていく教育課程の実現を目指すとしている(図1)。それは「『主体的・対話的で深い学び』の実現」という表現にも象徴されるように、現行学習指導要領で目指してきたことが引き継がれている理念と言える。実際、中央教育審議会の委員も「次期学習指導要領は現行学習指導要領を進化させたもの。大きく変化させるというよりも、理解を深め、発展させるもの」(秋田喜代美委員・第16回 教育課程企画特別部会より)、「(現行)学習指導要領の理念を『熟成』させることが次期改訂に求められている」(石井英真委員・弊誌インタビュー記事より)と指摘している。
では、目指す理念を熟成し、実現していくために、どのような点が改善されるのだろうか。改善事項は多岐にわたるため、中でも次期学習指導要領の特徴となりそうな点に絞って見ていく。
(1)学習指導要領の構造化
1点目は学習指導要領の目標・内容の一層の構造化だ。現行の学習指導要領では、「育成を目指す資質・能力」である「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」のそれぞれの深まりや、その2つを一体的に育成することが十分に可視化されていないという課題があった。そこで次期学習指導要領では、個別の知識・技能が相互に関連づけられて一般化され、統合的に理解された状態と、それにぶら下がる個別の知識・技能を各教科等で一体的に示すこととした。思考力・判断力・表現力等についても同様に、個別の思考力・判断力・表現力等を組み合わせたり、選んだりして総合的に働かした状態と、それにぶら下がる個別の思考力・判断力・表現力等を各教科等で一体的に示す(図2)。それらによって「資質・能力の軸」が可視化され、教師は「深い学び」を実現する単元・授業づくりがしやすくなることが期待される。また、構造化された資質・能力を基に内容の精選が進むことが予想され、それは教科書のスリム化につながることにもなる。さらに、構造化された資質・能力を表形式化・デジタル化(デジタル学習指導要領)して示すことで、分かりやすく使いやすい学習指導要領となることを目指す。
(2)教育課程の柔軟化
2点目は、多様な児童生徒や学校、地域の実態等に応じた教育課程を柔軟に編成できるようにする仕組み・制度の導入だ。義務教育段階で導入される調整授業時数制度(図3)では、対象となる教科等の標準授業時数を下回って教育課程を編成することを可能にするとともに、それによって生み出された時間(=調整授業時数)を別の教科等の授業時数に上乗せしたり、新たに開設する教科の授業時数に充てたりすることできるだけではなく、各教科等には該当しない、児童生徒の資質・能力の育成に特に資する効果的な教育プログラム(=学習枠)や、教育の質の向上に直結する組織的な研究・研修等(=研究・研修等枠)を実施するための「裁量的な時間」に充てたりすることができるようになる。なお、調整授業時数は週あたり最大4コマ程度で、「裁量的な時間」に充てられるのは最大2コマ程度(うち研究・研修等枠は最大1コマ程度)となる見通しだ。
高校の教育課程において採用されている単位制も大幅に柔軟化される(図4)。具体的には、必履修を含めた教科・科目の柔軟な組み替えを可能としたり、きめ細かな学習量調整ができるように1単位の計算方法を変更したり(1単位=35コマが17コマへ)、減単可能な必履修科目を増やしたりする。また、そうした仕組みを活用しつつ、地域や生徒の実態に応じた大胆な教育課程編成を行うことができるよう、学校設定教科・科目について卒業単位に含めることができる単位数の上限を引き上げる。
(3)AI時代を踏まえた改善
急速な進展を遂げるAIを踏まえた改善が図られているのも次期学習指導要領の特徴の1つと言える。AIを駆動させるために人間が出す指示や問いを生み出す上でも、AIが処理した大量の情報の正誤や妥当性を見極める上でも一定の知識の基盤が必要であり、そうした意味からも前述の「知識及び技能に関する統合的な理解」や「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」の重要性が説かれている。そして、AIに処理された大量の情報の中には誤情報や偽情報も含まれる中で、自らの人生を舵取りするにあたっては、AIの基本的な仕組みや人間の認知に与える影響に関する知識、そしてメディアリテラシーや情報モラルを含む情報活用能力が重要であることから、それらの資質・能力の一層の向上が各校種・教科等で図られることになる。具体的には、小学校の総合的な探究の時間で「情報の領域」を、中学校で「情報・技術科」を創設するとともに、高校の情報科を一層充実させることにより、小・中・高一貫して体系的に情報活用能力を育成する。ほかにも、例えば高校の数学では、AI技術の仕組みを理解し、適切に利活用できるようにする観点から、それらの理論的・技術的基盤である行列、微分・積分、確率、統計を教育課程上、重視すべく、「数学Ⅰ」ではそれらの基礎的素養を学ぶ学習内容「社会を読み解く数学」を新設するとともに、現行の「数学A」「数学B」「数学C」が統合される新科目の学習内容の中に「行列」が本格復活する。
※以上はあくまで改善事項の一部であり、そのすべては「審議まとめ(素案)」で確認されたい。
学習指導要領の改訂では変わることが注目されがちで、ともすると、それを実行・実施すること自体が目的になってしまいかねない。なぜ変えるのか、すなわち、自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手を育成する「主体的・対話的で深い学び」の実現という目的と常に照らし合わせながら、新しい教育課程をつくり上げていくことが重要ではないだろうか。今回の改訂が全方位的な改善であり、前例のない改革であるからこそ、その点を最後に強調しておきたい。
【次期学習指導要領に関する今後の主なスケジュール】
2026年度冬頃……中央教育審議会 答申
2026年度末……小学校・中学校 学習指導要領改訂
2027年度末……高校 学習指導要領改訂
2030年度……小学校 学習指導要領 全面実施
2031年度……中学校 学習指導要領 全面実施
2032年度……高校 学習指導要領 32年度入学生から順次実施






