私が公立小学校の教師として勤めた約20年の間に、学校を取り巻くデジタル環境は一変しました。特にここ数年は、コロナ禍やGIGAスクール構想の進展などで著しく変化しています。学校教育のデジタル化は、学びの質を高めるとともに、業務効率化にもつながるため、働き方改革を実現する有効なツールとしての側面を持ちます。しかし、そうした動きに対して、不安を感じる保護者や指導への戸惑いを感じている教師が多く存在することも事実です。そこで今回は、学校現場におけるデジタルツールの利活用について、教師はどのように捉え、活用すべきなのか、その基本的な考え方や具体的な活用のヒントを、私自身の実践例を交えてお話しします。

デジタルツールを、情報共有や学習状況の把握に活用

デジタルツールはとても便利で魅力的です。今やよりよい教育を目指すために不可欠なツールと言っても過言ではなく、最も効果的な使い方の1つが、子どもや家庭との連絡手段です。オンラインの学習状況を管理できるソフトは連絡帳の役目を果たします。子どもだけでなく保護者にも正しい情報を早く伝えることができますし、帰りの会で教師が明日の時間割を黒板に書き、それを子どもが連絡帳に写すといった時間も短縮することができます。明日の持ち物が分からないという、家庭からの問い合わせもなくすことができます。教師同士でカレンダー機能を共有すれば、予定管理もスムーズに行うことができます。授業中の情報共有や伝達も同様です。子どもがその日の授業の振り返りをノートに書いて提出し、教師がコメントを添えて返却するケースで授業支援ソフトを使えば、情報があっという間に送り手から受け手に届きます。アンケート機能は、対子ども、対保護者、教師間と、対象を問わず多数の意見を集約するのに便利ですし、多数決のプロセスの透明性が高まります。

私の教師時代も、最近注目を集めているAIに随分助けられました。作文の添削時にAIを活用したところ、誤字・脱字を抜け漏れなく素早く指摘できるようになりました。最新技術だけではありません。写真や動画の撮影といったタブレット端末の基本的なカメラ機能を活用するだけでも、学習効果を高めることができました。子どもがその日の学習内容や振り返りを30秒のスピーチにまとめて発表することは、文字でまとめることよりも難しいものです。宿題として、その発表の様子を自宅で動画撮影してもらえば、教師は子どもの理解度がよく分かります。高度なソフトやアプリを活用しなくても、タブレット端末を、1台でカメラ・ビデオ・辞書がついている3in1のマルチ端末だと思えば、端末利用に対する心理的なハードルも下がるのではないでしょうか。

小学校の学級担任時代は、授業にもデジタルツールを活用。コロナ禍では、学校内外で他の教師にデジタルツールの活用方法を伝えるなど、子どもたちの学びを止めないために尽力した。

変化や痛みを恐れずに、試してみることが大切

現在の学校現場は、デジタルツールの本格活用に向けた移行期にあります。これまでの指導スタイルを変えることへの不安や負担感を感じる先生方も少なくないと思います。しかし、変化や痛みを恐れずに、新しいやり方を試してみませんか。いわゆる「ガラケー」(ガラパゴス携帯電話)が主流だった頃に登場したばかりのスマートフォンは、ガラケーよりも重くてキー配列も異なり、多くの人が違和感を抱いていたと思います。ところが、今やスマートフォンの機能や利便性に圧倒的な魅力を感じ、もうガラケーには戻れないという人がほとんどではないでしょうか。それと同じです。ただし、新しいデジタルツールを使いこなしている人が、そうでない人の操作上の不安や活用に対する不満などに寄り添うことが大切です。

一方、子どもは「デジタルネイティブ」「AIネイティブ」と言われる世代ですから、デジタルツールの利用については、大人よりもはるかに柔軟に対応します。例えば、毎日のように学習状況の管理ソフトを連絡帳代わりに使っていると、「今日は何か連絡が来ていないかな?」と、子どもは自らソフトを使い、確認するようになります。そのように、様々な機能を使いこなしていくことで、デジタルツールが文房具の1つとして学習になじんでいくのだと思います。子どもは新しいものを取り入れることへの柔軟さを持つ故、情報モラルに関する課題や使い過ぎによる健康への影響などの懸念も生じますが、だからといって必要以上に警戒したり、禁止したりすることは避けるべきだと考えます。必要なのは正しい使い方を学ぶことであり、学校でもこの点を大切にして情報モラル教育などを行っていると思います。子どもの好奇心や、新しいものに柔軟に対応できる力は大切にしながら、適切に使う知恵につなげていきたいものです。

なお、学校教育においては、目標に至るまでの過程を重視する傾向がありますが、デジタルツールの利活用に関しては、成果も評価することがポイントです。使い方に多少の課題や紆余曲折があったとしても、それは新たなツールを使いこなすために必要なプロセスです。むやみに減点せず、最終的なめあてを達成できたことをきちんと評価することが大切だと考えます。

また、近年は地域や保護者に開かれた学校づくりが重視され、学校や教師がこれまで以上に地域や保護者と協働して子どもを育てようとする動きが強まっています。電話や連絡帳しかなかった時代よりも、デジタルツールを活用することでコミュニケーションが取りやすくなるのではないでしょうか。困り事だけでなくうれしいニュースやちょっとした出来事も伝え合うなど、もっと幅広く、自由な発想で学校と保護者がつながることができれば素晴らしいと思います。

新たな立場で学校を応援し続けたい

現在、私は教師を辞して民間企業に勤務しています。学校現場で得た教師目線での知見を強みに、これまでとは別の立場から、日本の教育をよりよくしたい、先生方の働き方を改善して先生方に笑顔を増やしたいと考えたからです。教師時代の常識や習慣とは異なる点が多く、戸惑いもありますが、やるべきことや、やりたいことがたくさんあって、これまでとは別の種類の刺激的な毎日を送っています。教師時代から異業種交流やオンラインでの情報収集を積極的に行っていた経験も役立っています。前回言及した、学校の働き方改革についても、民間企業の視点からの支援ができないかと考えているところです。今後も様々な形で日本の教育にかかわり続けることが自分の使命だと、思いを新たにしています。

 

(本記事の執筆者:神田 有希子)

 

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき)

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター研究員

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