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【誌面連動】「先生なら、どうしますか?」「東大を目指さない?」 安易に提案した担任の私に、 生徒が返した想定外の質問
岩手県立水沢高校 佐藤紘大

2026/07/21 08:30

教師としての指導観を問われた「あの瞬間」を、当事者の教師が振り返る「先生なら、どうしますか?」。本誌で紹介したエピソードの土台となる教師の指導観について、ウェブオリジナル記事でより詳しく紹介します。

佐藤紘大 先生

同校に赴任して4年目。数学科。生徒の主体的・自律的な学びの実現を目指し、授業改善に力を入れる。2026年度からは、DXハイスクール採択校である同校の様々な教育活動の評価・改善・精選を担うDX委員会の委員長を務める。

難易度という視点でしか生徒の志望校のことを考えられていなかった

私がクラス担任としてかかわった女子生徒Aさんは難関国立大学を志望していました。2年生の時点では志望学部・学科までは明確にはなっておらず、進路希望調査でも学部・学科の欄は未記入でした。それでも、どの教科も高い点数が取れる学力を持っている彼女であれば、どの学部・学科を志望しても合格するだろうし、進学後も十分にやっていけるだろうと思っていました。だから2年生の段階では、志望する学部・学科を決めるよりも、より高い目標を設定した方がAさんのさらなる成長につながると私は考えました。

 

より高い目標を目指すことを私が提案した生徒はAさん以外に2人いました。高い目標を持てば学習意欲が向上するだろうから悪いことではないのではないかと考えたのです。そして、高い目標を掲げさせるだけではなく、その達成に向けて担任として生徒を支援するために、私の担当教科である数学で添削課題に継続的に取り組むことを3人に提案しました。

 

Aさん以外の2人の生徒は、「そんなふうに先生に言ってもらえるのはうれしいです」などと答え、「より高い目標を目指してみないか」という私の提案を前向きに受け止めてくれました。そして面談以降、2人とも数学の添削課題に取り組み始めました。

 

ただ、当時を振り返ってみると、その2人が最初に志望していた大学・学部・学科や、面談後に新たな志望先として設定した大学・学部・学科の研究内容・教育制度などについて、私が彼らとじっくり話すことはありませんでした。恥ずかしいことですが、当時の私は難易度という視点でしか生徒の志望校のことを考えていなかったと思います。

 

「東大を目指さない?」と言った私に対してAさんは「東大に行ったら、私の人生の何が変わるんでしょうか?」と尋ねました。その質問に私はまともに答えることはできませんでした。また、「数学の添削課題に取り組んでみないか」という私の提案に対してもAさんは感謝の言葉を述べはしたものの、ほかの2人とは異なり、彼女が添削課題に取り組むことはありませんでした。どんなペースで添削課題に取り組むかは自分で決めてよいと3人に話していたこともあって、私からAさんに添削課題を提出することを促す声かけはしませんでしたし、「彼女は『今の自分にはまだ添削課題は必要ない』と考えたのだろう」と気にしないようにしていましたが、「『人生はどうなるか分からないから、卒業後の選択肢が増えそうな東大に行った方がいいんじゃないの?』としか答えられなかった私を頼りなく感じたのかも」という思いも同時にありました。

面談は生徒が前向きな気持ちになるための場

私がAさんとの面談で後悔しているのは、自分がよく知りもしない大学を、単に成績面だけで安易に勧めてしまったことです。私が東京大学の魅力を十分に理解し、Aさんの進学先としてふさわしい理由を自分の言葉で説明できていれば、Aさんが志望校を変えなかったとしても、志望校への思いを強固にすることに貢献できたはずです。

 

それまで、面談は生徒にとって前向きな変化のきっかけとなる場でなければならないと私は考えてきました。だからこそ、模擬試験の帳票を見ながら「この教科の成績がイマイチだね」などと、教師に言われるまでもなく生徒自身が分かっていることをただ生徒に伝えるような面談はしないようにしていました。

 

もちろん、必ずしも面談のたびに生徒が劇的に変わるとは思っていませんが、せめて生徒の中に揺らぎや現状への疑問を生み出したいと思っています。「先生と話すと前向きになれたり、もっと考えてみようという気持ちになったりする」と生徒に思ってもらえることが、教師への、ひいては学校への信頼につながるからです。

生徒が自分に向き合える機会をつくる

Aさんとの面談以降、私自身にも様々な変化がありました。

 

まず、生徒の志望大学・学部・学科や併願先として考えられる大学について下調べをするなど、面談の事前準備に時間をかけるようになりました。その結果、面談で生徒と話す内容が変わってきたと感じています。それまでも私は面談を重視してきたつもりでしたが、とにかく数をたくさんこなせばよいと考えていたのかもしれないと気がつきました。

 

また、東京大学を始めとする難関大学の入試問題の研究に一層力を入れるようになりました。難関大学を志望する生徒が多い高校に勤務することは、私は現任校が初めてです。Aさんとの面談の後、改めて東京大学の個別学力検査の問題に目を通し、担当教科の数学だけでなく、国語や英語などでどのような問題が出されているかを確認しました。そして、そうした問題が解けるようになるために努力し、時には壁にぶつかって悩む生徒に、本当に自分が最後まで寄り添えるのかを想像しました。難関大学を受験する生徒をサポートするためには、教師としての自分自身のさらなる成長が必要だと感じました。

 

生徒の進路選択の納得度を高めるための環境整備に取り組み始めたことも変化の1つです。生徒が大学・学部・学科を多角的に理解し、「ここに進学したい!」と強く思って大学入試に臨めるよう、大学の魅力を肌で感じられるような機会をもっと増やしたいと考えました。進路指導主事の教師に相談して、東北地域だけでなく、東京を始めとする様々な地域の大学に足を運ぶことを生徒に促す仕組みをつくろうと思っています。

 

加えて、生徒が社会や自分自身についての理解を深め、大学で学びたいことを見つけるための場として、探究学習を一層充実させることは、本校の重要な課題だと思っています。探究学習で自己理解を深めたことで学習意欲が高まり、希望進路を実現した生徒を、私は前任校も含めて数多く見てきました。

 

そして、「総合的な探究の時間」だけでなく、日々の教科の授業においても、生徒が自分に向き合う探究的な学びの機会をつくることは必要だと思っています。2023年度から私は、担当する数学の各単元の最後の授業で、生徒一人ひとりが自分にとって学びのキーとなった問題についてクラスメートの前で発表する「学びの収穫祭」を行ってきました。学びのキーとなった問題とは、単元全体の理解につながった問題や自分の視野が広がった問題、一番苦労した問題などを指します。そうした問題を教科書や問題集などから1問選び、その問題との出合いを通じて自分がどのように成長したかを語る「学びの収穫祭」も、自分に向き合う機会の1つだと私は考えています。多忙な生徒が様々な角度から自分に向き合える時間を、授業や学校行事、HRなどのあり方を工夫しながらつくっていきたいと思っています。

私にとってAさんとの面談は、生徒の進路支援において自分が大切にしてきたことを再確認する機会となりました。私は自ら掲げた希望進路に向かって歩む生徒に伴走する教師でありたいと思っています。「行きたい!」と心から思える志望校を生徒が発見できるように支援すべきところを、「ここを目指したら?」と成績面だけで安易に提案してしまったことは、私は戒めとしてこの先決して忘れません。

 

難易度が高いということだけで志望校を選び、そこを目指せばよいというわけではないけれども、「自分はこのあたりの難易度の大学が妥当だ」と、早々に自分の限界を決めてしまうのも間違っていると思っています。生徒が見つけた目標が今の自分にとって遥か上にあったとしても、「自分の可能性を信じて頑張ろう」と私は声をかけ、支援を続けていきます。

 

本校に勤務する教師の中では2番目に若い私ですが、浅い教職歴の中でも、「この道を目指そう!」と決めたことで、自分の苦手を克服しようと努力を始めるなど、わずかな時間で大きく変わった生徒を何人も目にしてきました。決断して行動する生徒の生き様はとても美しいものです。そうした生徒たちにこれからたくさん出会うためにも、「自ら掲げた希望進路に向かって歩む生徒に伴走する」という私の進路支援の軸がぶれることは二度とあってはならないと、強く思っています。

希望進路の実現に向かって歩む生徒に伴走したい

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