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特集

事例2
教科の授業時数を削減し、子どもが自ら立てた 問いに挑む、「探究『シブヤ未来科』」を開設
東京都 渋谷区教育委員会

2026/10/15 09:00

原則として午後を探究の時間とする「探究『シブヤ未来科』」を全区立小・中学校に導入した東京都渋谷区。授業時数特例校制度(*1)を活用し、各教科の標準授業時数のうち最大1割を削減し、その時間を総合的な学習の時間に充てている。探究にじっくり取り組む余裕が生まれたことで、子どもは自分の興味・関心を追究。各校は教育課程を工夫し、教科学力を維持している。

 

*1 義務教育段階において、学年ごとに定められた各教科等の授業時数について、総枠としての授業時数(各学年の年間の標準授業時数の総授業時数)は維持した上で、1割を上限として各教科(音楽[中学校2・3学年]、美術[中学校2・3学年]、技術・家庭、特別の教科 道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動を除く)の標準授業時数を下回った教育課程の編成を特例的に認める制度。

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渋谷区 概要

2024年2月改訂の「渋谷区教育大綱」では、「つくろう。ちがいを活かし合える、未来の学校。」を教育目標に設定。「基礎・共感・協働・探究・自律・挑戦・創造」の7つの力を育み、教科の基礎を土台にしつつ、子ども一人ひとりのペースや興味・関心に応じた学びを通じて自らの可能性を開く学校づくりを推進している。

人口 約23万1,000人 面積 15.11㎢

区立学校数 小学校18校、中学校8校

児童生徒数 小学生約7,500人、中学生約1,900人

教員数 約600人

お話を伺った方

柳田俊(やなぎだ・しゅん)

教育指導課統括指導主事
東京都公立小学校教員を経て、2021年度、渋谷区教育委員会の指導主事として配属。探究「シブヤ未来科」の立ち上げなどに従事。

「未来の学校」づくりとして、教育課程・校舎を刷新

渋谷区教育委員会(以下、区教委)は2024年度、全区立小・中学校に「探究『シブヤ未来科』」(以下、未来科)を導入した。未来科では、子どもは自分の興味・関心や身近な課題を基に問いを立て、調べ学習やフィールドワーク、地域・企業とのかかわりなどを通じて問いを探究していく。原則として午前は教科を中心とした授業を行い、午後は総合的な学習の時間や探究的な学びを行う教科の授業などで構成される未来科の時間としている(図1)。

未来科の時間の確保にあたっては、授業時数特例校制度を活用。各教科の標準授業時数を最大1割削減し、総合的な学習の時間の授業時数を小学校では年間155時間、中学校では年間142時間に拡大した。当初は研究開発学校制度の活用も検討したが、同制度は共通カリキュラムの作成が必要で、学校ごとの柔軟性を確保しにくいため、授業時数特例校制度を選択した。

図1 「探究『シブヤ未来科』」の仕組み

未来科を導入した背景には、現行の学習指導要領に込められた「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれの描く幸せを実現してほしい」という思い(*2)や、経済産業省「未来人材ビジョン」が示す「好きなことにのめり込んで」といった思いを実現したいという考えがあった。教育指導課の柳田俊統括指導主事は、「国内外の情勢を見ると、社会の変化はより速く、激しくなっており、これまで以上に探究学習に力を入れる必要があると考えました」と語る。

もう1つは、区立小・中学校で進む校舎の建て替えを、教育改革の好機にしたいという思いだ。

「本区では『未来の学校』づくりとして、多様で豊かな学びを支える学習環境の整備を進めています。そうしたハード面の改修を最大限生かすためにも、ソフト面の教育課程の見直しに踏み切りました」(柳田統括指導主事)

*2 出典は、文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介」の「改訂に込められた思い」。

3つの探究の形態を、各校が状況に応じて組み合わせる

独自の教育課程によって探究学習にじっくり取り組む時間が確保できたことで、子どもの学びが深まっていると、柳田統括指導主事は語る。

「以前は、課題の設定から実行・発信・振り返りまでのサイクルを回すのは年1回がやっとでしたが、今では2回、3回と回せるため、子どもが社会課題に向き合い、行動を起こすところまで取り組めるようになりました」

質の高い探究を実現できるよう、探究の形態として次の3つを小・中学校共通で設定している。

  • 探究基礎 調べ方や問いの立て方などを学ぶとともに、地域や企業での体験学習を通じて社会に触れる。
  • テーマ探究 学校が設定した共通の題材を探究する。
  • My探究 子ども一人ひとりの興味・関心から問いを立て、探究する。

3つの形態の探究をいつ、どのような順番で、どのくらい時間をかけて行うのかは、各校が子どもの実態や学校の課題に応じて決められる(図2)。例えば、年間を通して「テーマ探究」に取り組み、その過程で必要になった調べ方などを「探究基礎」で学び、年度後半に「My探究」を行う学校もあれば、「My探究」に取り組んでから「テーマ探究」に移る学校や、年間を通じて「My探究」を行い、並行して複数の「テーマ探究」に取り組む学校もある。

「各校が状況に応じて3つの形態を組み合わせられるよう、細かいルールは設けていません。未来科の進め方は学校によって様々です」(柳田統括指導主事)

図2 「探究『シブヤ未来科』」の1年間の流れの1例

「My探究」では大学院生らが子どもを伴走支援

3つの形態の探究において、同区が最も力を入れているのが「My探究」だ。

「100人いれば100通りの興味・関心があります。『My探究』では、教員は子どもの様々な取り組みを受け止め、次の一歩を踏み出せるように支援しています」(柳田統括指導主事)

「My探究」の進め方も各校で異なる。全学年で同じ時間に実施し、テーマごとに教室に分かれ、異学年で交流しながら個人で探究する小学校や、生徒が関心のあるテーマのゼミを選び、グループで探究する中学校もある。

「My探究」では専門性の高い課題を探究する子どもも少なくない。そこで区教委は、地域の大学と連携し、多様な学部の大学生を子どもの伴走役として、加えて中学校には、博士課程の学生や博士号取得者も「探究専門教員」として配置し、調べ学習や仮説検証などで子どもを伴走支援している。探究専門教員は教員と協働し、未来科の年間指導計画や学習評価の設計、教科横断の学びづくりにもかかわっている。

地域や保護者から協力も得られている。現役・元PTA会長らが中心となって立ち上げた「一般社団法人シブタン」は、学校と地域・企業をつなぎ、探究学習の充実に貢献している。

「シブタンは子どもの活動への協力者を探したり、企業のプログラムを学校に紹介したりしてくれています。子どもの学びを地域に開く、力強い応援団です」(柳田統括指導主事)

探究学習は幼稚園や小学校低学年にも広がっている。例えば、小学1・2年生の生活科において、アサガオの栽培方法を子どもが自分で調べて育てるといった探究的な学びを取り入れる小学校や、子どもの興味・関心を起点に遊びを通して試したり、考えたりする活動を実施している幼稚園もある。

教科学習と探究学習を結び、限られた時数で学びを深める

一方で、各教科の標準授業時数の削減により、教科学習では限られた時間でいかに高い学習効果を上げるかが大きな課題となった。各校では年間指導計画を見直し、国語科のインタビューや算数・数学科の統計など、各教科の探究的な内容を未来科に組み入れている(図3)。そうすることで、授業時数を減らしても各教科の授業が無理なく進められるとともに、探究を深める力にもつながっている。

「導入2年目からは、カリキュラム・マネジメントによって、未来科を柱に教科横断的な学びや探究的な学びを整理した年間指導計画を作成しています(図4)」(柳田統括指導主事)

午前に行う教科の授業も質の転換を図っている。単元や授業ごとに自分のペースで進める自己調整型の学習を取り入れたり、教員がデジタル上で子ども個々の学習の進捗や課題を把握して個別の支援を充実させたりしている。反復練習ではデジタル教材(小学校は「ドリルパーク」[*3]、中学校はAI型ドリル)を活用し、子どもの習熟度に応じた学習と、教員の採点などの負担軽減を両立させている。

*3 ベネッセが提供するミライシードのAIドリル。手書き入力問題も含めた豊富な問題数、宿題配信機能、リアルタイムモニター、AI機能(算数・数学のみ)、学力調査との連動機能などを備えている。

図3 教科の学びと、「探究『シブヤ未来科』」での教科横断的な学び

図4 2025年度 4年生の年間指導計画(例)

区教委は各校の挑戦に寄り添いながら支援

区教委は各校に様々な支援を行ってきた。未来科の導入前年度には、推進担当教員を「探究コーディネーター」として全区立小・中学校に配置し、他自治体の視察や月1回の情報交換会を実施。また、探究ハンドブックの作成や実践事例の共有、管理職向け研修、有志教員による勉強会「シブヤ未来科ゼミ」など、多角的な手立てを打った。

導入初年度には、区教委担当者が各校を200回以上訪問し、個別相談や地域・企業連携の調整にあたった。現在もチャットツールなどを通じて迅速に各校の相談に応じる体制を継続している。柳田統括指導主事は「新しい取り組みにおいて最も大切なことは、教員が失敗を恐れずに挑戦できることです。区教委は学校の挑戦を支援し、各校の管理職にも教員の挑戦を後押ししてほしいと伝えています」と強調する。

校種に応じた支援も工夫している。学級担任制が基本の小学校は、教員が教科と探究を結びつけた授業を発想しやすく、授業の調整も自己裁量でしやすいため、探究テーマを起点とした教科横断の授業づくりを促した。一方、教科担任制の中学校は、各教員が自分の担当教科・科目の専門性を生かし、探究的な学びを授業でどう実現するかを考えられるような支援をしている。

「小学校では、教科と探究を結びつけた実践がスムーズに広がっていきました。中学校は、校内の連携や調整に時間がかかりましたが、各教員の専門的な支援によって生徒の探究は深まりやすく、その姿が教員の意欲を高め、次第に教科を超えた取り組みになっていきました」(柳田統括指導主事)

子どもたちは探究を楽しみにし、自己肯定感も向上

未来科の導入から2年が経ち、様々な成果が表れ始めている。各校へのアンケート調査では、「探究は楽しい」と児童生徒の97%が回答し、「自ら問いを立てて探究に取り組んでいる」の肯定率は90%に上った。

「文部科学省『全国学力・学習状況調査』の結果では、児童生徒の自己肯定感や地域・社会への貢献意欲に関する項目の肯定率が、未来科の導入以降、年々上がっており、全国平均を上回っています。それも成果の1つと捉えています」(柳田統括指導主事)

不登校児童生徒の割合は、未来科の導入後、小・中学校ともに低下した。保健室や別室に登校する子どもの中には、「午後の探究の時間なら教室に行きたい」と話す子どももおり、未来科が登校や教室復帰のきっかけになっていることがうかがえる。

また、未来科の学びを通じて大人との対話を重ねた経験は、表現力・発信力の高まりにも表れている。中学校の教員からは、「高校入試の模擬面接で堂々と話し、自己表現できる生徒が増えている」といった声が上がっており、2025年度の都立高校の推薦入試では、全区立中学校の合格率が5割を超え、近年では過去最高の数値となった。その成果に対する未来科の影響についての検証は必要だが、区教委は子どもの成長を示す成果の1つとして捉えている。加えて、「全国学力・学習状況調査」の結果を見ると、学力はおおむね維持されている。

今後の課題は、学校間・教員間の実践の差を解消することだ。すべての子どもの学びが豊かになるよう、各校の実践を共有しながら教員の専門性をさらに高めていく。また、保護者へのアンケート調査では約4割の保護者が「探究『シブヤ未来科』で子どもが何を学んでいるかよく分からない」と回答しており、保護者への一層の発信と協力者の拡大が不可欠だと考えている。

「子ども一人ひとりの経験の差を公教育としてどう補うかが課題であり、その点からも、未来科を学校文化として定着させたいと考えています。今後も子どもがより豊かに学び、社会とつながる機会を探究を通して増やしていきたいと思います」(柳田統括指導主事)

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.2
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