- 教育委員会版バックナンバー
事例で読み解く! 教育トレンド
テーマ 学び続ける教師集団づくり
全21市町が協働して授業研究。議論を重ね、 現場で活用される授業改善の手引書を作成
長崎県教育委員会
2026/09/15 09:00
多様化する児童生徒への対応や若手教員の増加などを背景に、学校全体での指導力の向上が重要性を増している。その実現の鍵を握るのが、学校や地域の枠を超えた教員同士の学び合いだ。長崎県では、県内の全21市町教育委員会の連携による授業研究の事業を、県が主導する形で推進。その成果をまとめた手引書の作成などを通して、教員間で学び合う文化が各校で定着しつつある。さらに、各市町に設置された実践協力校では学びの成果が着実に表れてきている。
長崎県 概要
有人島の数は全都道府県の中で最多の51島で、県人口の約1割が島で暮らす。そうした地理的条件から、学校・家庭・地域が一体となった教育や遠隔授業などを先進的に推進している。
人口 約122万人 面積 4,130.98㎢
公立学校数(分校を含む) 小学校297校、中学校162校、義務教育学校3校、高校57校、特別支援学校18校 児童生徒数 約11万6,000人 教員数 約1万1,700人(2026年5月1日現在[速報値])
お話を伺った方

狩野博臣(かりの・ひろおみ)
教育政策監
長崎県立高校校長、同県教育委員会教育次長等を経て、2025年度から現職。

松尾美智子(まつお・みちこ)
義務教育課 課長
長崎県公立小学校校長、同県教育委員会参事等を経て、2025年度から現職。
各市町が自分たちの課題に基づき、研究テーマを選択
長崎県教育委員会(以下、県教委)は2024年度から、県内の全21市町教育委員会(以下、市町教委)と各市町の実践協力校が協働して授業研究に取り組む「令和の長崎スクール事業」を推進している。同事業は、県として初めて全市町教委が連携して取り組む事業だ。従来の事業では、県内の数校が指定を受けて授業研究に取り組み、その成果をまとめた冊子や報告会を通して実践を共有する形が一般的だった。しかしそれでは、よい実践であっても指定校以外の学校や市町に広がりにくいという課題があったと、義務教育課の松尾美智子課長は説明する。
「本県は南北に長く、離島も多いため、市町間の連携が容易ではありません。そこで全市町教委と県教委が連携し、各市町に実践協力校1〜3校を置く形にして、それぞれの市町がしっかりと授業研究に取り組める体制を整えました」
事業に先立ち、県教委は全市町を訪れ、各教育長に同事業の趣旨を説明。全県で取り組むことで各校が「線」で結ばれ、市町間の協働により、「面」となって成果が広がることが想定できたことから、各教育長から賛同を得ることができた。
各市町教委や実践協力校が主体的に授業研究に取り組めるよう、事業の進め方も工夫した。県教委が各市町教委に研究したいテーマをヒアリングし、それを基に「主体的な学び」「深い学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」の4つのテーマを設定。同じテーマを選んだ市町教委で部会を構成し、実践を持ち寄って協議する場を設けた(図1)。狩野博臣(かりの・ひろおみ)
教育政策監は、その意図を次のように語る。
「従来の事業をレストランに例えると、決められた定食が1つあるだけで、客は食べたいものを食べられるとは限りませんでした。そこで本事業は、客が食べたいものを選べる形にしました。教育の最前線にいる市町教委と学校の課題やニーズに応える事業にすることで、市町教委や学校が本事業の趣旨に納得して取り組めるようにしたのです」
立場を超えた対話を重ね、授業づくりのポイントを集約
実践協力校の成果は「長崎の教育の手引書」(以下、手引書)にまとめ、各校に配布した。手引書の作成ではまず、4つの部会ごとに市町教委の担当者、実践協力校の校長・研究主任、県教委の担当者が集まり、それぞれの気づきや考えを付せんに書いて、それを模造紙に貼りながら、授業づくりのポイントを分類・集約。次に、義務教育課の担当者が各部会で上がったポイントを整理・構造化し、それを基に部会で議論するというサイクルを回した。
「実践協力校の先生方には、自分たちの研究を他校の授業づくりに役立ててほしいという強い思いがありました。すべての学校が活用しやすい手引書になるよう、全員で知恵を絞りながら構成や見せ方を決めていきました」(松尾課長)
また、立場を超えた対話によって議論がより深まったと、松尾課長は語る。
「例えば、研究主任が子どもの具体像を提示すると、校長が学校全体の視点から一般化し、そこに市町教委の担当者が他校の事例を重ね合わせるというように、多角的に意見が交わされることで、子どもの姿が立体的に捉えられ、具体と抽象を行き来しながら議論を深めることができました」
現場が活用しやすい手引書を目指し、構成や見せ方を工夫
皆で知恵を絞って作成した手引書には、「主体的な学び」「深い学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」の4つのテーマごとに授業改善の視点が示されている。まず、実践協力校の課題感(図2①)と3つに集約した授業改善のポイントを提示(図2②)。次にそのポイントで授業が改善された時の子どもの姿を具体的に示し(図2③)、「課題感→授業改善→期待される子どもの姿」という流れで読み手が授業改善をイメージできるようにした。
また、どの部会でも「振り返り」や「デジタル学習基盤」の重要性が指摘されたことから、4つのテーマごとに、振り返りにおいてどのような視点をもつとよいのか、デジタル学習基盤がどのように活用できるのか、それらのポイントを示した(図2④)。加えて、県全体で長年重視してきた「一人一人を大切にする視点」についても、テーマごとに整理して盛り込んだ(図2⑤)。
各校が活用しやすい手引書になるよう、見せ方も工夫した。実践協力校の実践キーワードと、発表資料や動画にアクセスできる2次元コードを掲載。読み手が自校の課題に近い事例を探し出し、その具体策を参考にしやすくした(図2⑥)。さらに冊子の巻末には、各ページに掲載した「授業改善のポイント」「振り返りの視点」「デジタル学習基盤の活用」「一人一人を大切にする視点」を一覧表にまとめた(図3)。
「手引書はマニュアルではなく、校内研修や授業研究における授業づくりの切り口として活用されることを目的としています。手引書の活用方法は具体的に示し(図4)、研修会などで繰り返し説明しています」(松尾課長)
市町教委が主体的に各校に実践を共有
2025年11月には県内の教職員が参加するシンポジウムを開催し、各実践協力校が取り組みを発表した。今年度も11月にフォーラムを開催する予定だが、それを待たずに各市町教委による実践普及の動きが活発化している。具体的には、市町教委による研修会や実践協力校での公開授業、部会独自のラウンドテーブルの実施、自校の実践を伝える通信の配布などだ。
「各市町教委が実践協力校の実践を近隣校に広めようと主体的に動くことで、各校に実践が浸透し、教員が学び合う文化が着実に醸成されていると感じます。本県では、教員は基本的に離島を含めて自身の地元以外の市町にも赴任します。それが現在の赴任地だけでなく、他地域の実践からも学ぼうという意欲につながっているのだと思います」(狩野教育政策監)
県教委は毎年4月に全市町教委対象の研修を実施し、県の方針・施策を直接説明している。また、校務支援システムは2018年度に全県で調達し、長崎県推奨システムを決定した。そうした施策も「長崎の子どものために」という共通の目的を浸透させるとともに、教委間・教員間のつながりを強めることにつながっている。
松尾課長と狩野教育政策監は今後の展望を次のように語る。
「本事業は今年度が最終年度であり、実践協力校の実践を本格的に浸透させる段階ですが、市町教委からは後継事業を求める声が上がっています。本県では、授業以外の学習時間が全国平均を下回る傾向にあるため、自律的な学習者の育成に焦点をあてた事業を検討中です」(松尾課長)
「実践協力校では、学びの成果が学力を始めとして様々な面に表れてきています。そうした小・中学校での学びの充実は、高校での学びの深化に直結します。次期学習指導要領を見据えつつ、教員がやりがいを感じ、子どもの笑顔につながる教育基盤を県・市町・学校が一体となって構築することで、小・中学校から高校までのシームレスな『長崎の学び』の実現を目指していきたいと思っています」
実践自治体インタビュー

荒木俊明
長崎市教育委員会 学校教育課 課長
実践協力校から広がる教員間の学び合い
本市では立候補した小江原(こえばる)小学校と稲佐小学校の2校に実践協力校を依頼しました。両校に共通していた課題は、「主体的に学ぶ子ども」の育成を見据えた「個別最適な学び」の充実だったため、個別最適な学び部会に参加することにしました。
小江原小学校では、子どもと単元計画を共有した上で、誰と、どこで、何を使って、どうまとめるのか、それぞれの選択肢を示し、それらを子ども自身が選択して学びを進める授業を研究しています。授業の最後には、子どもが自分の学びをメタ認知する振り返りの時間を設け、次時の学びの見通しを持てるようにしました。自己調整力の高まりに伴い、学校生活全般において、子どもに落ち着きが見られるようになっています。
稲佐小学校では、「粘り強く自ら学ぶ子の育成」を研究主題とし、生活規律や授業規律を整えた上で、子どもが学習方法や学習課題・内容を選択して学ぶ環境を整備しました。子どもが学びの見通しを持ち、学ぶ内容や方法を自己選択・自己決定して学び、その学びを振り返るといった授業スタイルが構造化され、定着しつつあります。
今後は2校の成果を踏まえ、市内の全校が「主体的・対話的で深い学び」の充実を図っていきます。2校とも公開授業などで自校の実践を積極的に発信しており、それが学校を超えて学び合うきっかけになっています。市教委も、年次研修などで「長崎の教育の手引書」や実践協力校の資料を先進事例として活用し、例えば、「〇〇な学びを強化したい」と考えている学校に、手引書の該当ページや類似の取り組みを行う実践協力校を示しています。県内の取り組みは地理的にも教育環境的にも身近に感じることができるため、実践の参考にしやすいようです。





