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特集

事例3
サキドリ研究校として、授業を短縮して 余白を生み出し、教員と子どもの学びを拡充
奈良県北葛城(きたかつらぎ)郡 王寺(おうじ)町立王寺南義務教育学校

2026/10/15 09:00

2026年度に文部科学省「教育課程柔軟化サキドリ研究校」(*1)の指定を受けた王寺町立王寺南義務教育学校は、1コマを1〜4年生は40分、5〜9年生は45分にして年間60コマの「調整授業時数」を創出し、その半分を基礎学力の定着や探究学習に、残り半分を教員の研究・研修に充てている。教員が研究・研修にじっくり取り組めることが、子どもの多様な学びにつながっている。

*1 各校の判断により、各教科の標準授業時数を調整して教育課程を編成することを可能とし、生み出した時数を他教科等や「裁量的な時間」に充当可能とする「調整授業時数制度」を先取りするような形で教育課程を編成・実施し、研究開発を行うことができる事業。

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学校概要

学校教育目標は「学び続けて未来を拓く〜自律 挑戦 協創〜」。9年間の系統的なカリキュラムを作成し、一貫性のある指導で学力の定着と伸長を図る。小・中学校の教員による相互乗り入れ授業やチーム・ティーチング、5年生からの教科担任制など、義務教育学校の強みを生かし、子ども個々の課題に応じた支援に力を入れている。

設立 2022(令和4)年
児童生徒数 1,019人
教員数 71人
学級数 41学級(うち特別支援学級11)

お話を伺った方々

山田 均(やまだ・ひとし)

王寺町教育委員会 理事
王寺町立王寺南小学校校長、奈良学園大学准教授等を経て、2021年度から現職。

眞方武志(まがた・たけし)

王寺町立王寺南義務教育学校 校長
2024年度から現職。

リーダーを担う機会づくりで“5年生ギャップ”を解消

奈良県王寺町は2022年4月、町立小・中学校を統合再編し、2校の義務教育学校を開校した。その目的の1つは、中学校進学時に学習や人間関係などの変化になじめなくなる、いわゆる“中1ギャップ”の解消だった。両校では、1〜4年生は基礎・基本を確実に身につける「習得期」、5〜7年生は主体的に学び、自分の考えを積極的に表現できる力を養う「充実期」、8〜9年生は自分の目標に向けて力を伸ばす「発展期」と設定。発達段階に応じた支援を充実させることで、学年間の円滑な接続を目指すこととした。

「そうした取り組みにより“中1ギャップ”は解消しましたが、王寺南義務教育学校では新たに“5年生ギャップ”が生じました。その原因は、4年生までと5年生以降で通う校舎(4年生までは太子[たいし]学舎、5年生以降は畠田[はたけだ]学舎)が変わることにありました」と、王寺町教育委員会の山田均(ひとし)理事は語る。

太子学舎で最上級生として活躍していた4年生も、5年生になって畠田学舎に移ると、一番下の学年になる。すると、それまでの主体性が影をひそめ、受け身の姿勢が目立つようになった。そのため同校は、5年生がリーダーの役割を担う機会を意図的に設けるようにした。眞方(まがた)武志校長はこう語る。

「5年生が太子学舎を訪れ、1年生にはひらがな、2年生にはかけ算の九九を教え、3年生には自分たちが取り組んでいる探究学習の成果を発表するようにしました。その結果、“5年生ギャップ”は解消しつつあります」

研修を充実し、子どもを多面的に見取る力を養う

同校では、子ども一人ひとりの発達特性や小さな変化に気づき、包摂的に支援できるよう、教員がチームとなって子どもを多面的に見取る体制を採っている。その見取りに必要な教員間の情報共有や共通理解を図るための「余白」の確保を目的として、文部科学省「教育課程柔軟化サキドリ研究校」(以下、サキドリ研究校)の指定を受けた。山田理事は次のように説明する。

「本町では、義務教育学校の2校ともサキドリ研究校の指定を受けています。町として、子ども主体で学びを深める教育を推進するためには、教員が研究や研修にじっくり取り組める時間が不可欠だと考えています」

具体的には、同校では1コマを1〜4年生は40分、5〜9年生は45分にすることで年間60コマの「調整授業時数」を生み出して「裁量的な時間」に充て、半分の30コマを「子どもの資質・能力の育成に特に資する教育活動」に、残りの30コマを「教師の組織的な研究・研修等」としている。

確保した時間の中で力を入れていることの1つが、子どもが安心して学校生活を送れるよう、教員の支援のあり方を学ぶ研修だ。

「本校には1,000人以上の児童生徒が在籍しており、子どもたちの背景は様々です。そこで、問題を抱えている子どもに寄り添った支援ができるよう、スクールカウンセラーによるゲートキーパー(*2)研修を実施しています。本校の教員は、日常的に『先生はみんなの味方だよ』という姿勢で子どもに接しています。子どもが抱えている家庭の悩みにいち早く気づき、迅速な支援につなげられたこともありました」(眞方校長)

ほかにも、総合学力調査(*3)の結果を始めとするデータ分析会を年2回実施。教科ごとの分析を単元計画や指導案などの改善に活用している。

「単に平均点を見るだけではなく、つまずきが多い層や得意を伸ばしたい層など、多様な学力層を客観的に把握して、子ども一人ひとりに合った支援を考えています。それが、子どもの個別最適な学びと確かな学力につながっています」(眞方校長)

同調査の9年生の結果を見ると、子どもの学力は学年が上がるにつれて上昇傾向にある(図)。眞方校長は「保護者に学力の客観的なデータを提示し、本校の取り組みへの理解を得ることも大切にしています」と語る。

*2 問題を抱えている人や悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守ることができる人のこと。
*3 ベネッセが提供するアセスメントの1つで、「教科学力」と「学習意識」を併せて把握できる調査。同校では全学年で年2回実施している。

図 2026年度9年生における2023年度からの5教科の学力推移

子ども主体の教育活動を通じて、意欲や主体性を育む

一方、「子どもの資質・能力の育成に特に資する教育活動」では、主に2つの取り組みを行っている。1つは、すべての学習の土台となる言語力・読解力の育成だ。特に6年生までは、視写による学習言語の獲得や集中力の育成に力を注いでおり、例えば5、6年生では、子ども向け新聞の社説をノートに書き写す活動を行っている。

もう1つは、探究学習の拡充だ。同校では次期学習指導要領の議論を踏まえて、総合的な学習の時間で「テーマ探究」と「マイ探究」を実施している。「テーマ探究」では、8年生が社会科の授業と連動させて、王寺町の課題を調査・分析して施策を立案し、「王寺町子ども議会」で町長や議員に提言する。施策はエビデンスに基づいた説得力のある内容で、複数が採用されている。2026年度は、同校の給食の人気メニューで、町のキャラクター「雪丸」にちなんだ「雪丸からあげ」を活用した町おこしを提言したところ、商工会や飲食店によって商品化された(写真)。また、犬を介した住民交流の場として提言したドッグランも、開設に向けて計画が進んでいる。

写真 子どもたちの提言で商品化された「雪丸からあげ」は、弁当屋や屋台で販売された。

「マイ探究」では、7年生一人ひとりが自分の将来の夢や目標を発表する立志式を行っている。

「夢や目標は一人ひとり異なるものであり、立志式の時点で見つかっていなくても構いません。子どもが将来について考え、自分と向き合うことが重要であり、その機会をできるだけ多く設けるようにしています」(眞方校長)

立志式で同級生が思い描いている将来像を知ることは、自分の「興味・関心」や「得意」を見つめるきっかけになっているという。

子どもが王寺町子ども議会で提言したり、立志式で自分のあり方・生き方を表現したりする力は、探究学習のみで培われるものではない。「土台となるのは、やはり日々の教科の授業です。教員が授業の中で、子ども同士で考えを出し合い、他者の考えを受け止め、自分の考えが揺さぶられるような場を設定しているからこそ、探究学習においても、その力が発揮されるのだと思います」と、山田理事は語る。

さらに、子ども主体の学校づくりも、子ども一人ひとりの意欲や主体性を育むことにつながっている。同校では、生徒心得の見直しや体育大会の種目の追加、5年生と9年生による交流給食会など、児童会・生徒会を中心とした子どもからの提案で実現した取り組みが多い。2026年度は、2学期の中間考査前の1週間をSNSから離れる「デジタルデトックスウィーク」とすることを子どもから提案され、実施された。

「学校評価アンケートでは、『学校は楽しい』(1〜4年生)、『(子どもは)充実した学校生活を送っている』(5〜9年生及び保護者)の肯定率が、2024・25年度ともに9割を超えました。教員研修の充実が子どもの丁寧な見取りや個別支援につながり、子ども主体の学びも深化しています。今後も余白の時間を活用し、多様な子どもの学びの支援に一層力を入れていきたいと思います」(眞方校長)

 

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.2
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