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  • 【誌面連動】『VIEW next』高校版 2022年度 6月号

【誌面連動】ウェブで詳しく!『クローズアップ! 就職指導』
三重県立桑名北高校 望ましいマッチングに向けて
3年次7月・8月(求人票受け付け〜校内選考)

2022/06/20 09:30

本記事では、求人情報の管理や就職希望予備調査、応募前職場見学、面談など、『VIEW next』高校版2022年6月号の「クローズアップ! 就職指導」で紹介した、三重県立桑名北高校における求人票受け付けから校内選考までの期間の指導について、詳しく紹介する。

本記事のコンテンツ

1.就職指導の土台となる、きめ細かな情報管理

2.調査と面談、職場見学で就職観を揺さぶる

3.3年次7月からの就職指導を通して、生徒は大きく成長する

4.生徒の自己肯定感を就職指導の土台に

学校概要

◎設立 1980(昭和 55)年

◎形態 全日制/普通科/共学

◎生徒数 1学年約200人

◎2021年度進路実績(現役のみ)

4年制大は、愛知学院大、愛知工業大、金城学院大、鈴鹿医療科学大、中京大、名古屋商科大などに延べ 21人が合格。短大・専門学校進学61人。就職105人。

お話を伺った先生

主幹教諭・進路指導部代表
井上和也(いのうえ・かずや)

教職歴29年。同校に赴任して7年目。国語科。

進路指導部 就職担当
安井雅子(やすい・まさこ)

教職歴28年。同校に赴任して5年目。商業科。

1学年担任
丹羽 輝(にわ・あきら)

教職歴10年。同校に赴任して8年目。地理歴史・公民科。

三重県教育委員会事務局 就職実現コーディネーター
笹野 偉(ささの・たけし)

企業の人事部門やハローワーク職業紹介員を経て現在、就職実現コーディネーターとして活躍。桑名北高校など、県立高校4校の担当として、生徒の面接指導や企業への求人開拓を行う。

1.就職指導の土台となるきめ細かな情報管理

7月1日以降、高卒求人が解禁になると、桑名北高校の進路指導部の就職指導担当の教師は、表計算ソフトを使って、求人票の内容を学校独自のフォームへ入力し始める。同校では、日本標準産業分類に従ったシートを作成し、求人票情報の管理を行っており、求人票受付日、企業名、募集する職種、自校から応募できる人数、所在地などに関する項目を、教師が検索しやすいように一覧化し、生徒にも職種別の一覧表として還元している。コロナ禍の2021年度も、桑名北高校には1200を超える求人票が送られてきたが、その9割が7月中に学校に届けられるため、7月はその入力作業に多くの時間を割かれた。そうした情報の一元管理は、就職指導担当の教師がその年度の求人情報の概要を頭に入れるために必要不可欠なことであると、同校は捉えている。

求人票の情報の入力と並んで重要な作業となるのが、企業の採用担当者への応対だ。21年度も、7月上旬から8月上旬までの約1か月間で、およそ230社の来校があったと、進路指導部代表の井上和也先生は振り返る。

「就職指導担当の3人を含む進路指導部所属の6人の教師だけでは人手が足りないため、3年生の担任にも手伝ってもらって応対しました。ここに人員を確保しているのは、来客が多いという理由だけではなく、コロナ禍で就職の情報を得る機会が減っており、求人時の懇談は、企業・高校の双方にとって大変貴重であるためです。本校では、教師が2人1組になって、企業の採用担当者から、求める人材像や採用試験で重視することなど、求人票には書かれていない点を聞き出し、学校独自の「求人メモ」に記録します。企業が求める人材像を丁寧に聞き取っておくことで、生徒が職種や就業先を絞り込む際に、『この企業(仕事)は君に合っていそうだよ』などとアドバイスをすることができます。ここでの情報収集は、生徒と企業とのマッチングを実現する上でとても重要です」(井上先生)

企業の採用担当者から聞き取った求人メモの内容は、表計算ソフトで学校独自のフォームに追記され、進路指導部や3年生の担任に共有される。それによって、教職歴や赴任歴の異なる教師が、同じクオリティーの就職指導をすることができていると、丹羽輝(にわ・あきら)先生は語る。

「学校によって、求人票を送ってくる企業は異なります。求人票だけでは、その企業がどんな企業なのか、仕事のやりがいや厳しさはどのようなものかは分からないため、そうした求人票からは分からないことが記載されている求人メモが共有されることで、異動1年目の教師などであっても、生徒や保護者に伝えるべきポイントを押さえた面談を行うことができます」(丹羽先生)

同校では、受理した求人票をすべてPDF化して、生徒からのコピー希望に対して随時配付をしている。また、22年からは求人票管理システムを導入し、各生徒のスマートフォンなどの端末から、すべての求人票を閲覧できるよう準備をしている。

2.調査と面談、職場見学で就職観を揺さぶる

求人票の受け付け開始から就職を志望する企業の選定までの約1か月半の間で、桑名北高校の教師たちが心がけているのが、生徒の就職観を育て、そして揺さぶることだ。

生徒の中には、就職を志望する企業や業種を教師が尋ねても、地元で知られている大手企業を1、2社挙げることしかできない者もいる。高卒生の就職では、一般に企業が各校に割りあてた求人枠分しか生徒は応募できないため、同一の企業を志望する生徒が多い場合は、校内選考が行われることになる。そのため、大手企業しか挙げられない生徒や、志望したい企業数が極端に少ない生徒は、校内選考の前段階で他の生徒の希望と競合して、志望先がなくなってしまう可能性もある。

「校内選考の段階で、志望企業がすべて無くなってしまわないように、志望先を5社程度考えること、志望する企業の求人が今期に来ない場合は、すぐに切り替えて次の候補を探すように声掛けをすること、回数に上限を設けずに職場見学の機会を提供することなど、工夫をしています。すべての生徒の志望動向とその変化をリアルタイムで共有し、挙げた志望先が全滅してしまいそうな生徒に対しては、過去の志望履歴も汲み取った上で、よく似た業態の他社の求人を紹介しています。生徒自身にとっても、自分の志望が通らないままでは、満足度の低い就職になり、早期離職の引き金にもなります。それを防ぐためには、『大企業だけ』『この職業だけ』といった狭い視野での企業選びにとどまっている生徒の志望を揺さぶり、視野を広げさせることが大切です」(井上先生)

その具体的な手段として同校が重視しているのが、志望する企業の最終選定に至るまでに、3回実施される就職希望予備調査だ。まず、求人票が送付される前の6月に、1回目の就職希望予備調査を実施。生徒は、前年度の求人票を基に、志望する企業を3社挙げる。この段階で、企業名が3社挙がらない生徒、大手企業ばかりを列挙する生徒、挙げた職種がバラバラで希望が定まっていない生徒、本人の特性と大きく乖離した業種を志望する生徒などを確認し、教師が面談でサポートする。

2回目の就職希望予備調査は、7月上旬に、当年度の求人票を基に実施する。この調査では生徒は、就職を志望する企業名を5社挙げる。その結果をもとに就職選考のシミュレーションを行い、3年生の担任が進路指導部の教師とともに確認し、生徒・保護者と面談を行う。

2回目の就職希望予備調査を経て、生徒は、応募前職場見学に臨む。都道府県や学校によっては、職場見学は採用試験を受験する企業1社に限るというケースもあるが、同校では、最終志望を提出する前に各生徒に対して少なくとも3社の見学を推奨している。それも生徒の志望を固めることをゴールとしつつも、本人の就職観を揺さぶるための取り組みだ。

「志望を固めてしまう前に職場見学に行くことが、マッチングにおいてはとても大切です。職場見学から帰ってきた生徒と面談し、志望する気持ちに変化が生まれたか、生まれたのなら、それはなぜかを確認します。中には、強い希望で選んでいた企業だったにもかかわらず、見学後に自分に合っていないと申し出て、就職指導が振り出しに戻るケースもあります。いずれの場合も、本人が就職にあたって大切にしたいことを、生徒と一緒に言語化していきます」(井上先生)

職場見学を踏まえて、生徒は8月上旬に3回目の就職希望予備調査を提出する。その結果を2回目と同様、3年生の担任と進路指導部の教師が確認し、ミスマッチが起きている生徒には面談を行い、すべての生徒の希望の変動を的確につかむ。就職希望者全員が応募枠内に無理なく収まるような指導をしたうえで、8月第1週の最終選定に至る。その最終希望をもとに8月中旬には、校内で選考会議が実施される。

就職希望予備調査は、こちらからダウンロードいただけます。(↓)

PDFダウンロード

選考会議は、約100名の生徒を対象として、2時間程度の時間をかけて、「企業の求める人材像」「本人の適性」「校内成績」「出席状況」「基礎力診断テスト(*1)の成績平均値」「部活動や委員会活動」「職場見学参加」「過去の希望歴」「地理的要因」など、多様な指標を基に、総合的に行っている。

*1 ベネッセのアセスメント「進路マップ」の1つで、教科書レベルを中心に基礎学力を測るマーク式テスト。

3.3年次7月からの就職指導を通して、生徒は大きく成長する

7月からの求人票の情報の管理、企業の採用担当者の訪問対応、そして、就職予備調査の度に行われる面談と、7月から8月中旬までの教師にかかる負担は決して小さくはない。しかし、多くの生徒が、教師の苦労に見合った成長をこの時期に見せると、進路指導部の安井雅子先生は語る。

「6月、7月の段階では、『先生、どこがよい企業ですか?』と、私たちに聞いてくる生徒もいます。そんな生徒には、『どこがよい企業なのかは、その人によって違うものだよ』と話し、接客の仕事がよいのか、自宅から通いたいのか、夜勤はできるのかなど、生徒の希望を丁寧に聞きます。さらに、『ものづくりに興味があるのだけれど、具体的な就職先に結びつかない』と言う生徒には、『ものづくりといっても、大きいものもあれば、小さいものもあるよね』『自分でつくることと、皆でつくること、つくったものを売ること、どれに興味がある?』などと質問を重ねていきます。そうして生徒の志望を掘り起こしながら、生徒と一緒に、志望する企業を複数挙げていくのです」(安井先生)

職場見学に複数回参加する過程でも、生徒は大きく成長する。

「生徒には、職場見学に行ったら、そこで働く方に必ず質問するよう、事前に準備をさせます。そして、質問に回答していただく時には、必ず回答者の顔を見て、うなずきながら聞くようにする、聞き取ったことをメモ用紙に書き取るなど、具体的な指導をしています。そうして、職場見学から帰ってきた生徒に、『どうだった?』と聞くと、『自分の質問に答えてもらえてうれしかったです』『しっかり話を聞くことができているねと褒められました』などと答えてくれます。また、求人票を見て選んだ企業が、見学を通して、自分に合っているかどうかを知る機会にもなります。自分に合っていると感じた生徒は、志望がより強固なものになりますし、自分に合っていないと感じた生徒には、追加の職場見学の希望の有無を確認します。複数の企業を見ることで、自分の適性を見極めることになりますし、就職に対してさらに前向きになり、視座が高まっていくことも実感します。教師が生徒にしっかりと準備をさせて臨ませることで、職場見学を生徒の成長の絶好の機会とすることができるのです」(井上先生)

4.生徒の自己肯定感を就職指導の土台に

大手を始め、多くの企業からの求人が集まる桑名北高校だが、かつては、就職指導に非常に苦労する学校だったと、10年近く同校の就職指導をサポートしてきた三重県教育委員会事務局の就職実現コーディネーターの笹野偉(たけし)さんは振り返る。

「16年以前は、大手企業の求人がほとんどありませんでした。生徒に志望を聞いても、企業名を挙げられなかったり、面談する度に志望する業種が二転三転したりと、志望が固まらない生徒が少なくありませんでした。また、校内で面接指導を計画しても、約束の時間に生徒が来ないといったこともありましたし、履歴書の指導で漢字の間違いを正そうとしても、耳を貸さない生徒もいました。当然、入社試験の結果も芳しくはありませんでしたし、進学も就職もせずに、安易にフリーターという選択をする生徒もいました」(笹野さん)

生徒と教師のコミュニケーションがうまく図れないため、就職を志望する企業の選考も成績だけで行っていて、生徒と企業のミスマッチが頻発。就職して1年以内に3割以上の生徒が退職していた時期もあったという。だが、笹野さんは、「生徒が悪いというよりも、生徒の内面に届くような、就職へ向かう環境を整えてあげられていなかった」と考える。

そうした状況から、どのように生徒を、そして就職指導を変えたのか。改革を牽引した井上先生は、いくつかの取り組みを説明する。

「16年に赴任した時、最初に取り組んだのは、私たち教師がまず率先して生徒に対して丁寧な言葉遣いを実践することです。その上で、乱暴な言葉遣いをやめようと、生徒に呼びかけました。全校集会の場で、ある地元企業の採用担当者から言われた、過去の桑名北高校の生徒に抱く芳しくないイメージを、正直に生徒にも伝え、『言葉遣い、服装、街中での態度で、君たちや学校は評価されている。だから今から改めよう』と訴えました。」(井上先生)

生徒に危機感を持たせると同時に、生徒に自己肯定感を持たせることにも注力した。

「基礎力診断テストを受験したら、その結果の振り返りに時間を割き、『これだけよくなった』と、一人ひとりの生徒を褒め、特に成績が伸びた生徒は、全校生徒の前で表彰するなどして、自分たちも『やればできる』といった成功体験を積ませました。基礎学力を高めることで、入社試験に自信をもって臨むことができるようになりました。かつては入社試験の教科数やその難易度を理由に、せっかくの志望を変更しようとする生徒もいましたが、今はほとんどいません」(井上先生)

教師たちが穏やかな態度で生徒に接し、小さな成長も見逃さずに褒めるうちに、次第に生徒から、「自分たちはどうせ……」といった否定的な気持ちが消えていった。そして、「総合的な探究の時間」やロングホームルームを活用して、1年次から職業や生き方を考える授業を体系的に展開する中で、学校は大きく変わった。中でも、6月に校内で行う、2・3年生合同の大規模進路ガイダンス「みらいセミナー」(*2)は、企業からの評価を高める上で大きな役割を果たした。

*2 2019年「みらいセミナー」の動画はこちらからご覧いただけます。

「改革が始まってわずか1年で、学校は一変しました。以前は、廊下ですれ違った時に挨拶する生徒は2割程度でしたが、今では、ほとんどの生徒が挨拶をしてくれます。履歴書の志望理由も、皆が丁寧に、一生懸命書くようになりました。履歴書の書き直しを求めた際の生徒とのトラブルも一切なくなりました。そして、そうした変化に呼応するように、求人数が増加し、大手企業からの求人も増えました。求人が増えるだけでなく、合格するようになりました。もちろん、就職1年後の定着率も大きく改善しています」(笹野さん)

「高校生の就職は、大学入試とは異なり、浪人することも、同じ企業を再受験することもできません。一方で、就職試験に合格させることだけを目的とした、生徒の希望に添わない就職指導は行いたくありません。高校の就職指導によって生徒の人生は大きく変わります。単に生徒の就職先を開拓・あっせんするだけではなく、就職後も着実に人生を歩んでいけるように、キャリア形成を意識した就職指導を行うことを肝に銘じて、今後もよりよいサポートを追究・実践していきたいと思っています」(井上先生)

 

【参考1】桑名北高校ホームページ「進路状況

【参考2】桑名北高校の就職1次試験の合格率推移

受験者    合格者   不合格者    合格率

2007年  71    57    14      80.3%

2008年  76    63    13      82.9%

2009年  67    34    33      50.7%

2010年  68    40    28      58.6%

2011年  52    35    17      67.3%

2012年  98    56    42      57.1%

2013年  74    54    20      73.0%

2014年  81    60    21      74.1%

2015年  93    80    13      86.0%

2016年 112    89    23      79.5%

2017年 120   111     9      92.5%

2018年 135   127     8      94.1%

2019年 134   124    10      92.5%

2020年 107    95    12      88.9%

2021年  97    90     7      92.8%

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