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「教育で選ばれるまち」への挑戦~ 独自の教育施策をシティプロモーションにつなげる~
2026/03/09 09:00

全国の教育長に教育施策の立案の視点について尋ねる本コーナー。第12回は、近年、首都圏からの移住・定住を促進するプロモーションとして教育力の高さを積極的に発信している宇都宮市の小堀 茂雄(こぼり しげお)教育長に、は同市の“教育力の高さ”の背景にある教育施策について、話を聞いた。
宇都宮市 概要
栃木県の県庁所在地であり、北関東で最大の人口を抱える「北関東の経済・産業の拠点」。東北新幹線で東京駅から最短48分と、首都圏からのアクセスのよさも魅力。市内には、内陸型工業団地として国内最大級の「清原工業団地」を有するなど、高度なものづくり技術が集中している一方、農業も盛んで、首都圏への食料供給の役割も果たしている。
人口 約51万人
面積 416.85㎢
市立学校数 小学校69校、中学校25校
教員数 約2,500人
児童生徒数 約37,000人
お話を伺った教育長
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宇都宮市 教育委員会 教育長
小堀 茂雄(こぼり しげお)
プロフィール
大学を卒業後、中学校の社会科教員として勤務。24年間の教職経験のうち、市立小・中学校で6年間校長を歴任。教育委員会では学校教育課長、学校教育担当次長を歴任するなど、13年間の経験を積む。2019年4月から現職。座右の銘は「初心忘るべからず」。
聞き手
田中 雄(たなか ゆう)
株式会社ベネッセコーポレーション
学校カンパニー 小中学校事業本部
義務教育支援1課(東日本) 課長
1.テストの分析と市独自の教職員任用で児童生徒の学力向上をサポート
<田中>宇都宮市は「教育で選ばれるまちを目指して」を掲げ、教育力の高さを積極的に発信されています。その取り組みの背景についてお聞かせください。
<小堀>「教育で選ばれるまちを目指して」という方針は、私が教育長2期目を迎え,市の教育力を発信していきたいという思いがあり、2023年に宣言したものです。宇都宮市は現在、首都圏からの人口流入の促進を政策として掲げ、子育てのしやすさ、働きやすさ、暮らしやすさをアピールしています。教育委員会としても、本市の教育力の高さを発信することで、市が目指している移住・定住の促進を後押ししたい考えがあります。現在は、本市ならではの取り組みや特徴をリーフレットにまとめ、市内外に広く配布しています。
<田中>そのリーフレットでは、最初に「確かな学力の育成」をアピールしていますね。貴市の児童生徒の学力の状況や教育施策をお聞かせください。
<小堀>本市の児童生徒は「全国学力・学習状況調査」で10年以上、全国平均を上回る学力を維持しています。その背景としては、「小学校6年・中学校3年」という区切りではなく、「小1~小4」「小5~中1」「中2~中3」という節目を設けた小中一貫教育プログラムにより、発達段階に応じた学習指導を実現できていることがあります。加えて、担任を補助する学習支援の教員を市独自で任用し、きめ細かな指導を実現していることも大きいと考えています。
<田中>それは素晴らしいですね。「全国学力・学習状況調査」のほかに、宇都宮市独自の学力テストも実施していると伺いました。
<小堀>2003年から毎年12月に「学習内容定着度調査」を実施しています。対象は小学6年生と義務教育の出口の中学3年生で学習内容の定着度の測定が目的です。テスト結果は、指導主事が教科ごとの課題や経年変化を分析し、他自治体との比較をした上で、80ページほどの報告書にまとめています。以前は冊子でしたが、2024年度からはデータ化して各校へ送付しています。学校には、自校の結果を分析し、その結果を学校のホームページで公表するように依頼しています。
また、テスト当日には、全学年の児童生徒を対象とする「学習と生活についてのアンケート」も実施しています。学力だけでなく、生活習慣も含めて総合的に分析しており、それがより実効性のある指導改善につながっています。
<田中>先ほど、学習支援のスタッフを市独自で任用しているというお話がありましたが、ALT(外国語指導助手)も市が直接雇用されているそうですね。
<小堀>はい。直接雇用している理由は、本市がALTに求める人物像である、「学校現場になじみ、子どもたちと積極的にコミュニケーションを取れる人物」かどうかを我々自身で見極められるからです。本市では、小学校1、2年次から年間10時間の「外国語活動」を導入しており、ALTの配置人数は全国の中核市の中でもトップクラスです。小1、小2の授業には基本的にALTに入ってもらい、早期から子どもたちに生の英語に触れさせています(写真1)。
また、ALTには、本市が毎年夏季休業中に実施している「イングリッシュキャンプ」にも参加してもらっています(写真2)。同キャンプでは、児童生徒と一緒にネイチャークラフトやウォークラリー、英会話活動を行います。ALTが自国の文化を紹介する場面もあり、語学力の向上だけでなく、異文化に対する子どもたちの視野を広げる機会にもなっています。
2.国平均を上回る読書量を支える「司書の全校配置」と「電子図書の拡充」
<田中>リーフレットにも書かれていますが、宇都宮市の児童生徒の1か月あたりの読書の冊数が非常に多くて驚きました(小学生37.5冊、中学生10.5冊)。読書好きの子どもが多いだけでなく、本に親しめる環境が市内全体に整っているからこその数値だと感じました(図1)。
<小堀>それは司書教諭をサポートする学校図書館司書の存在が大きいですね。本市では、2006年度から全小・中学校に学校図書館司書を配置しています。以前は学校間で蔵書や読書活動の状況に差が見られましたが、現在はすべての学校で質の高い読書環境が整備されています。司書は子どもたちが興味を持ちそうな本を紹介したり、本を手に取りやすい棚づくりをしたりするなどの工夫をしています。また、担任が「図書館へ行って調べてみよう」と呼びかけた際に、専門的な相談に乗れる司書がいることは非常に大きいと思っています。
<田中>ICTを活用した読書習慣づくりも進んでいるのでしょうか。
<小堀>はい、2025年度7月から市独自の予算で宇都宮市電子図書館に「児童書読み放題パック」を導入しました。市内の小学4年生から中学3年生までの児童生徒に既にIDを配布済みです。読み放題パックは、「どこでも」「待たずに」「同時に何人でも」読むことができます。例えば、朝の読書の時間に読みたい本を同時に読めるだけでなく、不登校傾向にある子どもや図書館から遠い地域に住む子どもの読書機会の確保にもつながると期待しています。
自然とのつながり」「社会とのつながり」の中で児童生徒が育つ仕組みづくり
<田中>リーフレットで紹介されているように、自然体験活動の充実ぶりも目を引きます。具体的な内容を教えてください。
<小堀>本市には、「宇都宮市冒険活動センター」という、広大な自然の中にテントやロッジ、様々なアクティビティ設備を備えた拠点があります。市立小・中学校全94校の小学校5年生と中学校1年生が、そこで2泊3日の自然体験活動を行います。小学5年生はグループで協力して問題を解決する「イニシアティブゲーム」や火おこし体験をし、中学1年生は登山やカヌー、テント生活や自炊などを体験します(写真3)。同センターは本市の施設であるため、保護者の経済的負担が非常に抑えられています。交通費や施設使用料は市が負担しており、保護者が負担するのは食事代のみです。
<田中>2泊3日は比較的長い日程ですね。昨今は教員の働き方改革の影響もあり、宿泊行事を縮小・廃止する自治体も増えていますが、宇都宮市がその活動を続けている理由は何でしょうか。
<小堀>本活動によって子どもたちが顕著に変わるからです。活動後にアンケート調査を行っていますが、その結果からは明らかな変容が見て取れます。私自身も教員時代に何度も現地へ行きましたが、教室では見られないような生き生きとした表情や、成長する子どもの姿を何度も目のあたりにしました。同センターには専門の指導員が常駐しており、教員と協力して子どもたちの自主的な活動を見守っています。教員の負荷はゼロではありませんが、子どもたちの成長が感じられ、大きな満足感にもつながっているようです。「縮小しよう」という声は聞こえてきません。
<田中>自然活動体験は自然とのつながりの中で成長を促すものですが、一方で、社会とのつながりを重視したキャリア教育にも取り組まれていますね。
<小堀>はい。代表的なものが「宮っ子チャレンジウィーク」です(写真4)。中学2年生が月曜日から金曜日までの連続した5日間、連携先の事業所や医療機関、官庁などで就労体験やボランティア活動をします。
<田中>5日間とは本格的ですね。学校現場も受け入れ先の事業所も大変なのではないでしょうか。
<小堀>確かに調整は大変ですが、「1、2日間だけでは『お客さん』で活動が終わってしまう。5日間継続してこそ得られるものが大きい」といった声が現場から上がっています。協力いただいている事業所には、「宮っ子チャレンジウィーク実施中」のポスターを掲示するなど、地域教育への貢献をアピールする機会として活用していただいていますし、新たに協力していただいた企業には教育長名で感謝状を贈呈しています。2002年に始まって以来、「地域ぐるみで子どもを育てる」という意識が着実に高まっていると感じています。
3.教育力の可視化はプロモーションだけでなく、教職員の誇りと自信につながる
<田中>充実した教育、子育てしやすい環境は、地域の魅力に直結しますね。特に宇都宮市は首都圏へのアクセスもよく、新幹線通勤も可能な距離です。
<小堀>そうですね。現在宇都宮市は、新幹線等を利用した通勤・通学の補助制度(月額上限1万円を補助)を設けています。「仕事は都内、教育は宇都宮で」というPRは、首都圏に住む人に向けて魅力あるライフスタイルの提案になると考えています。
<田中>今後の展望についてお聞かせください。
<小堀>最も大切なのは現場の教職員が意欲を持って取り組める仕かけづくりだと考えています。リーフレットの中で本市の教育を「3つのAction」*として定義したのは、外部に向けたPRだけでなく、現場の教職員に「自分たちはこれほど素晴らしい教育を提供しているんだ」といった自信と誇りを持ってほしいというねらいもありました。
*以下のURLから宇都宮市のリーフレットの「3つのAction」をご覧いただけます。
https://www.city.utsunomiya.lg.jp/kosodate/gakko/1012029/1044174.html
課題はもちろんありますが、まずは市民や教職員が「宇都宮の教育は素晴らしい」と実感できることが重要です。それこそが、質の高い教育活動を継続していくための基盤になると考えています。







