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【誌面連動】「先生なら、どうしますか?」「もう喫煙するな」と私。「外では吸わないで」と母親。すれ違った教師の正しさと母の思い
静岡県・私立沼津中央高校 後藤松太郎 先生

2026/04/20 09:30

教師としての指導観を問われた「あの瞬間」を、当事者の教師が振り返る「先生なら、どうしますか?」。本誌で紹介したエピソードの土台となる教師の指導観について、ウェブオリジナル記事でより詳しく紹介します。

後藤松太郎 先生

同校に赴任して27 年目。教頭。
進学課長として同校の進路指導を長くけん引してきた。
2023 年度の創立100 周年を契機として、
24 年度に通信制課程を新たに設置することになり、
その中核的な役割を果たした。

「目線合わせ」と「心に寄り添う」ことは全く違う

私が2年生男子のAさんの担任を務めた約25年前は、喫煙は高校現場では珍しくない問題行動の1つでした。喫煙が見つかれば家庭謹慎などの判断が下されるわけですが、その際、学校に呼ばれた保護者が担任と一緒に子どもに説諭することもありました。大抵の生徒は担任と保護者の言葉を黙って聞くのですが、Aさんは「高校生がたばこなんて吸っちゃ駄目でしょう」と叱る母親に対して、「うるせえ、ばばあ!」と、私の目の前で大声で言いました。

 

私は反抗的な息子を独りで育てる母親の苦労を察し、「担任である私が彼を更生させよう」と決意しました。禁煙に成功した知人の話を聞かせに行ったり、休日に一緒に寺で座禅を組んだりするなど、彼が喫煙をしないようにするための指導にのめり込みました。

 

「Aさんは大丈夫、もう喫煙はしない」。そう思った矢先、彼は喫煙を繰り返し、ついには中途退学となってしまいました。彼の最後の登校日に、「外では吸わないで」と母親から言われていたことをAさんから明かされた時、私は「母親は息子の喫煙を止めようとしていなかったのだ」とショックを受けました。いくら自分がAさんのために力を尽くしても、母親の理解と協力がなければAさんを更生させることなどできるはずがない。自分の苦労が報われなかったことに徒労感を覚えました。私は「喫煙は家でも外でも駄目だということを、母親と目線合わせするべきだった」「自分が母親と連携してAさんの喫煙をやめさせていたら、彼の中途退学は防げたはず」と後悔し、自分を責めました。

 

しかし、彼の中途退学から10年以上が経ったある日、激しく衝突していたAさんと母親が仲よく買い物をする様子を見て、それまでの自分の反省自体がそもそも間違っていたのではないかと、私は考えるようになりました。私がすべきだったことは、母親との目線合わせだけではなく、母親が子どもを大切にする気持ち、荒れる子どもの心を何とかつなぎとめようとする思いに心を寄せることだったのではないか。そう考えるようになったのです。

教師としての正義が生徒を不幸にしたかもしれない

Aさんが中途退学になる前に、もし私が母親と密にコミュニケーションを取っていたら、私は「彼がたばこを隠し持っていたら、すぐに取り上げて私に連絡をください」などと、私と一緒にAさんを監視するような行動を母親に提案したと思います。

 

高校生の喫煙は許されることではありませんから、母親と連携してAさんの喫煙をやめさせようとすること自体が間違っていたとは思いません。しかし、それが「母親を味方にして、Aさんに対する自分の指導を成功させたい」という考えによるものだったら、私の指導はAさんの人生にとって本当に価値のあるものだったと言えるのかという疑念が生まれたのです。

 

もし、私が母親と連携してAさんを監視し、喫煙をやめさせることができていたら、Aさんは高校を卒業することができたかもしれない。しかし、母親に対してさらに反発し、親子関係が崩壊した可能性もあったのではないか。もちろん、高校在学中に母親に強く反発しても、大学で学んだり、就職して働いたりする中で、母親との関係は修復できた可能性もある。ただ、高校を中途退学したことが、彼自身が母親への思いに気づくきっかけとなり、親孝行な息子に彼を変えたのだとしたら、「何としても喫煙をやめさせて、無事に卒業させたい」という私の願いは誰のためのものだったのか……。

 

あの時、自分はどうすればよかったのかは今も分かりませんし、こうすればよかったと安易に答えを出してはいけないような気もしています。教師が生徒の人生の「正解」を決めつけることの危うさを、教師の「指導」によって生徒のその後の人生が大きく変わるかもしれない怖さを、私は思い知らされました。

思ったようにうまくいかないところに教師の仕事の価値がある

あの時、Aさん親子のために自分はどうすればよかったのか、明確な答えは出ていません。ただ、Aさんの母親の気持ちを聞き、共感することはできたと思います。中途退学の可能性が高まっている以上、喫煙をやめさせることは確かに大事だけれども、独りで息子を育てる母親の悩みを聞き、その思いや願いを受け止め、母親の味方になろうとする態度を示すこともできたはずです。もしかすると、そのようにして母親のことを理解する中で、Aさんがなぜたばこを吸うようになったのか、その理由と解決の糸口が見えたかもしれないと思うこともあります。

 

Aさんが中途退学してしばらくして、私はある先輩教師から「生徒の問題にピンポイントで迫ってはいけない」「問題そのものだけではなく、生徒からいろいろな話を聞くことで、生徒は心を開くものだ」とアドバイスをもらいました。若さに任せて教師としての正義を生徒に対して貫こうとする私を、その先輩教師はいさめてくれたのです。

 

何気ない会話を通じて相手を理解する姿勢が、すぐに私に身についたわけではありません。それでも、先輩教師の言葉を思い出し、生徒との面談では「なぜ、そうなったと思うか」「その問題はどうすれば解決できると思うか」などとピンポイントで問題を解決しようとするのではなく、普段の生活について話を聞く中で、生徒が抱える問題の核心に生徒と一緒に迫ることを心がけました。生徒へのかかわり方が私の中でゆっくりと変わる過程で、自分は若い頃は手っ取り早く問題を解決しようとしていたことに気づきました。ピンポイントで問題を解決しようとしたことで、むしろ問題をこじらせてしまったことがあったかもしれない。そのように自分の行動を振り返ることもできるようになりました。

 

かつては多くの学校で起きていた喫煙の問題は、近頃はすっかり少なくなりました。しかし、高校生の問題行動がなくなったわけではなく、最近は自傷行為や薬物乱用などが全国的な問題になっています。そして厄介なことに、生徒の服装や言動、成績、家庭状況などからは生徒がどのような問題を抱えているかが分かりにくく、ピンポイントで生徒の抱える問題の核心に迫ることがますます難しくなっていると、全国の多くの教師が感じているのではないでしょうか。

 

現在の私は、教頭という立場上、若手の先生から質問や相談をされることがよくあります。自分なりの意見を述べる際に気をつけているのは、私の意見が唯一の正解だと受け取られないように話すことです。人間を相手にする仕事である教師に、「こうすれば必ずうまくいく」といった正解はないですし、反対によかれと思ってしたことが問題をこじらせてしまうこともある。一方で、私たちは教師である以上、生徒のために一歩を踏み出さなければいけない。その時、若手の先生が私のことを一緒に試行錯誤する仲間だと思ってくれたらうれしく思います。

 

生徒が抱える問題の多くはすぐには解決できません。それでも、粘り強く生徒と対話し、試行錯誤する若手の先生方を励ますことが私の役目です。思ったようにすぐにはうまくはいかないかもしれないけれど、やりがいがあるし、面白い。若い先生方には教師の仕事をそのように捉えてもらいたいと思っています。

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