学校教育情報誌『VIEW next』『VIEW next』TOPへ

  • ウェブオリジナル記事

新世代toi-time 第7回テーマ「生徒一人ひとりに合った進路指導」
問い「生徒一人ひとりに合った進路指導をするためにすべきことは何か」

2026/03/05 10:00

G先生からの問い
それぞれの生徒に合った進路指導をすることが難しい、と感じています。自分自身が大学のことを深く知らないという原因もあるのですが、将来に悩んでいる生徒や、やりたいことは明確だが大学選びに困っている生徒などに適切なアドバイスをするためにやっておくべきこと、気をつけるべきことは何ですか。

コラム執筆者

北海道・私立旭川明成高校
佐藤卓也(さとう・たくや)

1.生徒一人ひとりの進路指導を考えるということ

素敵な「問い」をありがとうございます。
それぞれの生徒に合った進路指導について、何が正解なのかは正直、私にも分かりません。ただ、私が大切にしていることの1つは、「生徒の可能性が広がる選択肢を、生徒自身の中から引き出すこと」です。中学生の頃の私は、将来について深く考えておらず、陸上自衛隊に入ろうと何となく思っていました。高校選びも真剣だったとは言えません。しかし、中学校で始めたソフトテニスを「高校でも続けてみないか」と声をかけてくださった高校の顧問の先生との出会いをきっかけに、私の人生は大きく動き出しました。

2.原体験から学んだ高校生活の意味

その恩師は競技を通して、人としての生き方や考え方を教えてくれただけでなく、私に「大学進学」という選択肢を示し、夢と希望を与えてくれました。その経験から、高校の3年間・約1,000日間は、生徒の人生そのものを決めるまでには至らなくとも、今後の「人生の方向性を定める極めて重要な時期」だと考えています。現在、私は進路指導部長として6年目を終えようとしていますが、進路指導で最も大切にしているのは、「生徒との対話」、つまり面談です。生徒一人ひとりがどのような環境で育ち、どんな価値観の中で生きてきたのかを丁寧に聞くようにしています。

3.生徒を取り巻く現実と、教師がチームとなって行う支援

進路の選択には、生徒の生い立ちや家族構成、保護者の職業、場合によっては祖父母の居住地など、その生徒がどんな地域や環境で生まれ育ち、どのようなことに興味を持ってこれまでの人生を歩んできたのか、また、保護者がどんな考えを持っているのかなどを知ることで、生徒の可能性を最大限に広げることができると考えています。家庭の経済状況や保護者の意向、進学後に親元を離れて暮らすことへの不安など、様々な要因が複雑に絡み合います。生徒本人の思いと家庭の状況との間で進路に対する考え方が揺れるケースも少なくありません。だからこそ、進路面談や三者懇談で得た情報を、担任・教科担当・進路担当間で共有し、「生徒カルテ」として蓄積していくことが重要だと考えています。教師がチームとなって多面的に生徒を捉えることで、より適切な判断が可能になり、その上で生徒と一緒に進路に向けた「作戦」を立てていくことができます。

4.「点」を打ち続けることが未来につながる

どんな学習に取り組むのか、部活動や探究活動、ボランティアなどを通してどのような経験を積み上げるのか。進路は結果ではなく、日々の選択と経験の積み重ねによって決めるものと考えます。
ここで読者の先生方に問いかけたいのですが、ご自身が高校1年生の時、将来やりたいことは明確に決まっていたでしょうか。決まっていた方もいるかと思いますが、おそらく多くの方がまだ決まっていなかったのではないでしょうか。だから私は生徒に「興味があれば、まずはやってみること」を勧めています。例えば、ボランティア活動などで地域に出て、普段かかわらない大人の方々と接し、普段の学校生活では経験できないことに取り組むことは生徒の成長につながります。私の教え子の中で、校外での経験を通して進路先を見つけた例をいくつかご紹介します。

•対話から生まれた志: 大人との会話を通じて地域の課題や困り事を知ることは、自分の将来を考えるきっかけになります。そうした課題や困り事を解決する力を身につけるために大学で学び、将来は地域の活性化に貢献できる市の職員を目指す生徒が現れました。
•高齢者との交流: 地域の保育園で、年長児が作ったカレーを振る舞うイベントがありました。そのイベントを盛り上げるために生徒がチラシを製作し、1軒ずつ訪問して配布すると、ある独居高齢者の家に招かれ、先立たれた奥様のために一緒にお線香をあげさせてもらった経験をした生徒がいました。その経験から生徒は「世の中で孤立している人を救いたい」という思いを持ち、社会福祉士を目指すようになりました。
•生活の現場での気づき: 同イベントで、高齢者の食事に栄養の偏りがあることに気づき、在宅栄養指導ができる管理栄養士を目指すようになった生徒がいました。また、子ども食堂の運営に携わったことをきっかけに「相対的な貧困」について研究したいと考えるようになった生徒もいました。

学校だけでは学ぶことができないことを地域に出て「自ら感じ、気づき、学びを深める」こと、その一つひとつの経験は「点」に過ぎませんが、「点」を打ち続けることで、いつか必ず「点と点がつながって線になる」瞬間が訪れます。やりたいことが明確になったら、偏差値などに捉われず、学びたい分野で魅力的な研究をしている大学や教授を探す。それこそが、生徒の可能性を最大限に広げる進路指導だと考えています。

5.最後に

特にここ数年は、本校から送り出した卒業生が大学でも有意義な生活を送り、意欲的に学んでいます。私が運営する「地域探究ゼミ」では、旭川市や近隣町村を巡った生徒が、大学生になっても市の職員と連携して地域活性化プロジェクトを企画・運営したり、縁もゆかりもない地域の大学へ進学した生徒が、IT系の部活動の外交代表を務め、さらには自ら地方創生サークルを設立したりするなど、大いに活躍しています。
北海道内外の国公立大学や専門学校など、それぞれの進学先で自分の夢をかなえるために一生懸命努力している彼ら、彼女らの姿は、我々教師や後輩たちの大きな励みになっています。進路指導の「答え合わせ」は何年後にできるのか……。もしかしたらその問いは「解なし」なのかもしれませんが、「世のため、人のために生きる」生徒を育てたいという思いで、私は今日も教壇に立っています。

Benesse High School Online|ベネッセハイスクールオンライン

ベネッセ教育総合研究所

Copyright ©Benesse Corporation. All rights reserved.