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新世代toi-time 第2回テーマ「民間企業から教職へ」
問い「民間企業を経験してから教職に就くメリットは何か」
2025/12/25 09:00
Fさん(大学生)からの問い
私は教師になりたいのですが、どうしても社会人から教師になるルートをたどりたいと思っており、大学卒業後は民間企業に就職しようと考えています。そのルートを歩む場合のメリットを、現役の教師の視点で教えていただきたいです。
コラム執筆者

東京都・私立多摩大学附属聖ヶ丘中学高校
出岡由宇(いずおか・ゆう)先生
素敵な質問をありがとうございます。
私自身が7年間、民間企業にてメディア関係の仕事に従事し、その後に転職して教師になりましたので、自身のキャリアから体感した部分が中心になりますが、回答させていただきます。
会社員から教師になることで得られる最大のメリットからお伝えしますが、実のところ、その享受は質問者様にではなく、「学校とその生徒」にあると思います。文部科学省が令和6年度に発表した下記のデータによると、該当年度に教師として採用された人数のうち、民間企業経験者は4.5%であり、それは極めて少ない割合だと感じます。質問者様が民間企業を経験してから教師になった場合、民間企業のノウハウを学校現場に流入させ、シナジーを創出する可能性を有する、希少な人材になり得るということです。
そちらを踏まえて、私が感じた具体的な事例をいくつか示します。
(1) スピード感の向上
民間企業は利益を追うという至上命題があり、それは月単位や四半期単位、年度単位などでそれぞれ求められることが多いです。その場合、自身の仕事の区切りは最低でも月単位で求められることになります。そして、その前提にシナジーの創出機会があると思っています。学校の業務は時間割と年間行事によって、その大部分がルーティン化できます。それ故、時々訪れるイレギュラーな業務に対応することが苦手な教師は非常に多いです。1週間でするべき業務整理とその成果の逆算が染みついている民間企業経験者の計画力とスピード感を有していれば、対応のロードマップをデザインすることが比較的容易だと思います。それは学校全体の発展、ひいてはそこに通うすべての生徒にとって大きなプラスです。
(2) 社会への干渉力の向上
民間企業では他企業との関係性を構築することが必要です。そのためには電話やメールによる折衝、打ち合わせや懇親会などがあたり前のように存在します。一方、学校では社会との連携が必要となる業務よりも、目の前の生徒への授業や個別対応が中心になります。もちろん折衝の業務もありますが、新たな仕事を創造するためのものは決して多くありません。
しかし、VUCAの時代にあって、学校も新たな価値創造が必要なのは明らかです。民間企業経験者の折衝力はそういった場面でいかんなく発揮されるでしょう。特に、社会に開かれた学びを求められる探究学習をデザインすることは、多くの学校の悩みの種になっているので、民間企業で得たノウハウは質問者様が思っている以上に生徒の成長を下支えできるはずです。
(3) 研修体制の整備
何より重要なのは、上記のようなノウハウを個人のスキルにとどめてしてしまうのではなく、校内研修制度などで押し広げて展開することだと思います。民間企業には入社後研修やミドルエイジ研修、管理職研修など、充実した育成研修制度があることが多いです。一方、学校ではそういった研修が制度化されていることが少なく、教員免許更新講習も2022年に廃止されてしまいました。自身が受けてきた研修制度のロールモデルを学校で構築することができれば、そこで働く教師の資質・能力の向上に大きく寄与できると思いますし、そんな教師たちから教えてもらえる幸せな子どもたちを増やすことができると思います。
最後に、「利益」を追い、「利益」に追われる民間企業と違い、「子どもの成長」を追う教師という仕事は本当に楽しく、素晴らしい仕事だと思います。その違いを体感できるのは、民間企業からの転職者だけが得られる特権です。もしかするとそれが1番のメリットかもしれません。質問者様が素敵なキャリアを積み上げられることを願っています。


