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新世代toi-time 第5回テーマ「自治的な活動(ルールメイキング)」
問い「『自治的な活動(ルールメイキング)』はどのようなもので、どのように学校の教育活動に取り入れればよいのか」

2026/02/27 12:00

E先生からの問い
「自治的な活動(ルールメイキング)」という言葉をよく耳にしますが、それは具体的にどのようなもので、どのように学校の教育活動に取り入れればよいでしょうか。

コラム執筆者

市立札幌藻岩高校
對馬光揮(つしま・こうき)

1.「自治的な活動」は、「自分たちの生活を、自分たちの手で豊かにする」ために行われる

考えさせられる「問い」をありがとうございます。
「自治的能力」(疑問を持ち、収集した情報を整理・分析しながら、対話によって形成された自分の考えを表現する力)は特別活動だけではなく、教科学習においても身につくものだと考えられます。それを説明するにあたって、まずは「自治的な活動」とはどのようなものなのかを押さえます。
 私が住む札幌市の教育委員会は、「課題探究的な学習」と「自治的な活動」を「学ぶ力」の育成に向けた2本柱としていますが、『令和7年度札幌市学校教育』のパンフレットでは、「自治的な活動」を次のように定義した上で、4つの要素を示しています。

≪定義≫
子どもが「~したい」という意欲を持ち、よりよい方法を考えて動き、集団づくりや社会への参画を通して、変化を生み出した喜びを手応えとして心に残すという主体的な活動
≪4つの要素≫
(1)自分たちの意思を実現する
(2)自分たちの問題を自分たちで解決する
(3)自分たちの行動に責任を持つ
(4)一人ひとりが「自分が大切にされている」と実感できる

また、そのパンフレットには、「『自治的な活動』では、『学校生活をよりよくしたい』『学級や学年のために何ができるか』等の思いや願いの実現に向けて仲間と協働して取り組む過程において、『学ぶ力』を育んでいきます」と述べられており、「私たちの成長やよりよい生活に向けてチャイムは必要だろうか」といったテーマ例も挙がっていました。
そのことから考えると、今注目を集めている「ルールメイキング」に近いニュアンスがあるように思われます。

2.自治的な活動は、生徒が「当事者」になることから始まる

市民教育(シティズンシップ教育)には「(1)ルールは守らなければいけない」「(2)ルールは変えられる」「(3)ルールの変更は誰もが提案できる」という「ルールの3原則」というものがあるのですが、これまでの学校教育では(1)のみが重視され、(2)(3)はないがしろにされてきました。学校におけるルールメイキングの流れは、その3原則を踏まえて、生徒に「学びのコントローラー」を託すことによって、生徒が学校生活に対する「当事者意識」を高めることが、学校のねらいの1つだと考えられます。当事者意識がない人は与えられたものへの質に不満を言いますが、当事者意識がある人は問題解決に向けてアイデアを出して行動することができるようになります。
他責思考に陥ることなく、生徒一人ひとりが「当事者」となり、自分たちの手で自分たちの課題を解決する。それが自治的な活動のポイントです。

3.「多数決」で物事を決めない――自治の本質は、対話による合意形成にある

そのうえで、自治的な活動が本当の意味で教育的成果を上げるための重要な仕掛けが1つあります。それは、生徒たちに「自治の本質は、誰1人置き去りにすることのない、対話による合意形成にある」ということを様々な場面で繰り返し伝えることです。
ヤマザキマリ氏は『「自由」の危機――息苦しさの正体』に収録されている「『世間体の戒律』から自由になるには」において、「自分の内面にある違和感を持ち続けていくことが大切」であり、「自由に生きるためには、やはり教育の段階で、長いものに巻かれずに自らの意見を発言し、行動する訓練が必要」だとした上で、次のように述べています。

日本でも「おかしい」と思ったことに対して声を上げるということが増えてきています。けれども、声の上げ方ということでは、まだうまく調整ができていないという気がします。声を上げることは大事ですが、「そんなことくらい理解できて当然だろう」「どうして分からないのか」と、ただ一方的に声を張り上げても、相手にはなぜ自分が非難されているのか納得がいかないままかもしれません。(中略)なんとしてでも自分が信じていることを相手も信じてくれないと納得がいかない、と思い込むからおかしなことになるのであって、相手が間違っていると思うのではなく、価値観が違うと受け止めればいい。「この人は自分が思いもしないようなことを考えているんだな」と俯瞰的に見て、受け入れていく。そうやって相手を慮(おもんばか)りながら柔らかく対話をしていけば、お互いに気づきを促すこともできるのではないかと思います。特に、これから日本が多様な価値観を受け入れていく時代を迎えるのだとしたら、こうした利他性を育むことは非常に重要になっていくはずです。
【出典】ヤマザキマリ『「自由」の危機――息苦しさの正体』

違和感を持って声を上げることはもちろん大切ですが、意見の対立を乗り越えようとする「対話」の重要性と「合意形成」の方法を学ばなければ、ルールメイキングの意義は見失われてしまいます。
ここで押さえておきたいことは、ルールメイキングでは「多数決をとってはいけない」ということです。先程のチャイムの有無を例に考えてみましょう。「アンケートを取った結果、半数以上の生徒が『チャイムは不要だ』と考えているので、チャイムは廃止した方がよい」と結論づけると、それはチャイムを必要だと考えているマイノリティの意見を切り捨ててしまうことになります。そもそもアンケートは様々な意見があることを可視化するために行うものであって、多数決のための道具にするべきではありません。多数決で物事を決めるのではなく、様々な意見をテーブルに並べ、「じゃあ、どうすればいい?」と対話を重ね、誰1人置き去りにすることなく合意形成を図る。それがルールメイキングの本質だと思います。
個人的にはルールメイキングが流行することはよいことだと思っていますが、「対話と合意形成によって自分たちの手で生活を豊かにする」という本来の目的が見失われてしまい、「ルールメイキングに取り組む」ということ自体が目的となるのは避けなければいけないと考えています。

4.教科学習で「自治的能力」を身につける――考えを揺らし、深め、提案する学び

何かに疑問を持ち、収集した情報を整理・分析しながら、対話によって形成された自分たちの考えを提案するという「自治的な活動」は、実は「課題探究的な学習」となります。したがって札幌市教育委員会は、その2つを「学ぶ力」の育成に向けた2本柱としているのだと私は理解しています。そのように整理すると、そうした学習や活動は、特別活動や総合学習・探究だけではなく、教科学習にも取り入れることができるということが分かります。
私が担当している国語科の授業を例にすると、「説得力のある論説文を書こう」という単元において、導入として「学校のルールや仕組みについて違和感があること」を各クラスで洗い出し、その違和感の妥当性を検討するために生徒たちで話し合ってもらったことがあります。印象的だったのは、どのクラスも多くの生徒が最初は挙げられた違和感に共感を示していましたが、違和感に対する反論を整理していくうちに、「意外と現状のままの方がよいかも」「でも現状はやっぱり問題点があるから、どうすればそれを解決できるのか、アイデアを出そう」などと、揺らぎながらも考えが深まっていったことです。なお、違和感が妥当だとクラス全体で判断したものについては、私が職員会議でルールの見直しを提案し、関係のある先生方や生徒会の尽力により、あるルールは実際に変更されました。

※単元「説得力のある論説文を書こう」にご興味がある方は、下記URLをご覧ください。
市立札幌藻岩高校 学校HP 国語科ページ

国語科は学習指導要領でも「話し合う活動」が設定されており、自治的な活動につなげやすい教科です。一方で、教科ごとの特性はあるものの、自治的能力はどの教科でも身につけることができます。教科学習を始め、すべての教育活動で身につけた力を基に、誰1人置き去りにすることなく、生徒が自分たちの手で集団生活をよりよいものにしようとする、そのような教育をこれからも目指していきたいと私は思っています。

オススメの本:『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』(オードリー・タン、E・グレン・ワイル、ライツ社)

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