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働き方改革×メンタルヘルス ~対話を大切にしながら、タスクフォースで進める~
2026/01/21 14:00

全国の教育長に教育施策の立案の視点について尋ねる本コーナー。第11回は、沖縄県那覇市教育長の宮里 寿子(みやさと ひさこ)氏に、増え続けていたメンタル不調による休職者数を2024年度の46人から32人に減少させる成果を上げた施策である「働き方改革×メンタルヘルス」について、話を聞いた。
那覇市 概要
沖縄県の県都。古くから貿易の窓口として栄え、現在も県の政治・経済・文化の中心地として発展している。琉球王国に由来する文化や史跡も豊富。「首里城跡」に代表される世界遺産、「那覇ハーリー」を始めとする祭典など、数多くの文化資源が市民によって大切に受け継がれている。
人口 約31万人
面積 41.42㎢
市立学校数 小学校36校、中学校17校
教員数 約1,600人
児童生徒数 約26,000人
お話を伺った教育長

那覇市教育委員会 教育長
宮里 寿子(みやさと ひさこ)
(プロフィール)
2024年4月より現職。2018年に那覇市立城岳(じょうがく)小学校校長、2021年に同市立天久(あめく)小学校校長と、校長職を歴任してきた経験を生かし、現場の教員の声を踏まえた改革の実行を期待され、教育長職を託された。
聞き手

江田 幸司(えだこうじ)
株式会社ベネッセコーポレーション
学校カンパニー 小中学校事業本部
義務教育支援2課(西日本) 課長
1. 教育委員会と市長事務部局との連携による「教員負担軽減タスクフォース」
<江田>「働き方改革×メンタルヘルス」は、既に成果を上げている素晴らしい施策ですね。なぜ、その施策を実行されたのですか。
<宮里>那覇市で働く教員が、あまりに厳しい環境に置かれていたためです。2023年度の文部科学省の調査によると、沖縄県はメンタルヘルス不調によって休職している教員の割合が、過去15年にわたって全国最多でした。その中でも本市の状況は深刻でした。
「このままでは教員のなり手がいなくなる」と強い危機感を持った市長は、2023年5月に記者会見を行い、副市長と当時の教育長を共同座長として、政策統括調整監、学校教育部長や生涯学習部長などの部長級がメンバーを務める「那覇市立小中学校教員負担軽減タスクフォース」(以下、タスクフォース)の立ち上げを発表(図1)。まさに全庁体制で教員の働き方改革を推進することを決めました。当時私は学校現場の校長職を務めており、負担軽減を推進できるのかと、半信半疑でした。
しかしながら、立ち上げ後のタスクフォースの動きは迅速でした。まずは教員に対して、負担になっていることについて聞くアンケートを実施しました。校長から副校長・教頭、教諭・助教諭、養護教諭、栄養教諭までを含めた大規模アンケートで、対象者は1,600人以上。同アンケートによって、私たちがこれまで何となく抱いていた負担感が明確に言語化され(図2)、校長研修会でもアンケート結果の報告がありました。同アンケートで最も要望が多かったのは、教員業務支援員や特別支援教育補助員等の人員拡充でした。
本市では、「やる気・元気旗頭フェスタinなは」を始めとする子ども対象の事業に、教員が手厚くかかわってきました。そこで、参加者の募集や取りまとめを教育委員会が行い、指導等のボランティアは地域の中学校区青少年健全育成協議会が担うようにしました。また、これまでは夜間街頭指導に教員が参加しておりましたが、参加の依頼も行わないようにしました。他にも、ポスター展の募集も教育委員会主体で行うなど、教育委員会が次々と引き取ることで、教員の負担を軽減しました。
2.外部の力を借りながら、教員の負担軽減と意識改革を実現する
<江田>そうした改革の中、宮里教育長に白羽の矢が立ったのですね。
<宮里>タスクフォースの立ち上げから5か月後の2023年10月に、市長から教育長就任を依頼されました。ただ、私が教育行政にかかわったのは2年間程度で、しかも教育研究所勤務でしたから、教育行政はほぼ未経験の状態でした。そのため市長には、「お引き受けできません」とお伝えしたのですが市長から、「長期間にわたって管理職として現場にいた宮里先生だからこそ、今まさに困り事を抱えている教員の生の声を施策に反映できる。ぜひ、やってほしい」と、説得されました。
<江田>就任後の2024年度以降は、どのような施策を実行されましたか。
<宮里>第1に、保護者対応のあり方を再考しました。私自身、管理職対象の研修会において、保護者対応については「保護者に寄り添いましょう」「保護者の話を傾聴しましょう」といった講義を受けてきたのですが、具体的にどこまで保護者に寄り添えばよいのか、その線引きが難しいと感じていました。保護者は、学校ではできないことを要望することもありますし、厳しいご意見をいただくことも少なくありません。そのため現場では、どう対応すべきか、判断に悩み、対応の際にも苦しんでいました。
本市は、スクールロイヤー制度がしっかり整備されています。しかしながら、スクールロイヤーの協力が得られるのは「子どもの利益が最優先」という考えに基づいた法律上の助言までで、保護者対応の場に同席してもらうのは厳しい。
そこで私たちが考えたのが、「学校問題解決支援員」を採用することでした。学校問題解決支援員は、学校を巡回訪問するほか、学校からの要請があれば、中立の立場で保護者対応の場に同席し、双方の話をまとめたり、必要に応じてスクールロイヤーなどの外部機関につないだりする役割を担うスタッフです。学校問題解決支援員の採用は非常に効果がありました。学校現場からは、「学校問題解決支援員が保護者対応の場に同席してくれるだけで気持ちが落ち着く」といった安心の声が聞かれ、保護者の話が必要以上にヒートアップすることも少なくなりました。保護者も教員も、子どもを第1に考えているのは変わらないのですから、ともに建設的な話し合いができるようになったことは、本当によかったと思っています。
第2に、メンタルヘルスの改善や働き方改革は自分たちでも進めるものだという意識や文化を、学校現場に醸成することに力を入れています。具体的には、メンタルヘルスについては、文部科学省の「公立学校教員のメンタルヘルス対策に関する調査研究事業(2023~2025年度)」の「セルフチェック」や「ストレス管理の方法」について解説した動画を視聴する研修会を実施しています。また、タスクフォースでの取り組みとして、2024年度に、モデル校において民間のコンサルティング事業者を活用した業務改善活動を行い、2025年度には、その活動を全小・中学校に展開しています。
教育委員会管轄の保健師も配置しました。これまでも産業医は配置していたのですが、自分から相談する教員は多くありませんでした。現在は保健師が学校訪問などを通して、学校の困り事を確認し、支援が必要な教員は産業医や必要な支援につないでいます。また、メンタルヘルスに関する教員の意識を高めるため、相談窓口を設けたり、「保健だより」や簡単なストレスチェックを紹介する情報誌等を発行したりして、積極的に教員に働きかけています。
3.「自助」や「共助」を推進する、つながりを重視した「公助」
<江田>学校を外部と積極的につなげている印象を受けました。
<宮里>学校という場所は特殊で、閉じられている面があります。校長時代の自分も含めて感じることですが、働き方改革は教育委員会が行うもの、上から降ってくるものだと捉えている教員が少なくないのではないでしょうか。もちろん、制度やシステムは重要です。しかし、最終的にメンタルヘルスの改善や働き方改革を推進するのは、やはり中から変わっていくことが重要でしょう。市や教育委員会による「公助」だけでなく、「自助」のセルフチェックや教員同士の助け合いといった「共助」もまた、メンタルヘルスの改善や働き方改革の推進に欠かせないパーツの1つなのです。
特に「共助」の同僚性はとても大切です。しかし、特にコロナ禍に学生生活を過ごした世代の中には、先輩教員になかなか相談しづらいと感じている教員もいるようです。そこで校長研修会や教頭研修会では、職場での「対話」の活性化や同僚性を高めていくような職場づくりを何度も何度もお願いしました。具体的には、管理職からの教員への「ねぎらい」の言葉かけや、教員同士が気軽に話せる関係性を築くための意図的・計画的な「ゆんたく(沖縄の方言で、おしゃべり)会」の開催などです。
ただ、支援が必要なのは若手教員だけではありません。ベテラン教員や校長・教頭も同じです。学校組織は“鍋蓋式”と言われますが、校長や教頭は孤独な存在です。彼らはほかの教員をケアする立場にありますが、自分たちはケアされません。
そのため、学校と外部とのつながりはもちろん、学校と教育委員会とのつながりも大切にしています。教育委員会の職員は頻繁に学校を訪問しますし、私も各学校の校長に、「子どもたちが『やる気・元気旗頭フェスタinなは』で頑張っていましたよ」などと、子どもの活躍などを話題にして、管理職とメール等でコミュニケーションを取っています。また、校長研修会も教頭研修会も、教育委員会が一方的に行政に関する説明を行う場から、校長・教頭同士が情報交換できる場へと変えています。
<江田>施策の実行によって、どのような成果を感じられていますか。
<宮里>この1年で、教員のストレスチェックの結果は改善されました。ストレスや疲労感など、ネガティブな反応が軒並み減少しているほか、上司や同僚からの支援を受けられたという回答が増えています。結果的に、メンタルヘルス不調での休職者も14人減りました(図5)。
また、業務改善に関してのアンケートでは、興味深い回答がありました。それは自由記述欄に書かれた回答で、「管理職が労働時間減少の対策を講じ、部下の意見もよく聞いてくれるようになった。そして、子どもたちに接する時間が増えた」と書かれていて、最後に「私はこの仕事が好きだ」とありました。そのように、教員がゆとりを持って働けるようになると、それが教育の質の向上という結果として、子どもたちに着実に還元されていくことを実感しています。
不登校児童生徒の支援など、まだまだ取り組むべき課題は少なくありません。学校現場、教育委員会、市政、民間、そして各家庭や地域、皆が子どもを主語にし、協力して教育を改善していけるよう、これからも施策の推進とその情報発信(「那覇市民の友 令和8年1月号[那覇市広報誌]」で発信)に努めて参ります。






