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新世代toi-time 第9回テーマ「『宿題』の意味」
問い「宿題の意味や、プリント課題を毎日取り組ませることについて、どう思いますか」
2026/03/30 12:00
I先生からの問い
私が担当する教科の授業では宿題を毎日出しているのですが、難易度が高いために分からなかったり、解くのに時間が足りなかったりするなど、結果的に答えを書き写して提出する生徒が一定数いる現状です。宿題の意味や、プリント課題を毎日取り組ませることについて、どう思いますか。
コラム執筆者

市立札幌藻岩高校
對馬光揮(つしま・こうき)
1.「ディベート思考」を活用する――問題を「構造」として捉える
悩ましい「問い」をありがとうございます。多くの先生方が頭を抱えているテーマの1つだと思います。
宿題については、効果的なものもありますし、無意味だと思えるもの、もっといえば逆効果となってしまうものもあるため、要不要の二元論で語ることができないテーマだと思います。したがって、ここでは宿題のメリットとデメリットについて考えを整理する方法と、僭越ながら私の実践をご紹介することに留め、それらを踏まえてI先生が担当されている教科の授業において宿題の意味はあるのかを考えていただけると幸いです。
私は、メリットとデメリットを整理する時に「ディベート思考」というものを活用します。それは、経営コンサルタントの瀧本哲史氏が言及した考え方で、あるテーマに対する賛成と反対の意見を頭の中で整理し、客観的に判断することによって最善解を導き出すための思考法を指します。
2.メリットとデメリットは、3要素に分けることで可視化できる
まずは、ある行動を取る際のメリットとデメリットを次の3要素に分けて整理します。
A)メリットの3要素
1 それをしなければ問題が起こり、
2 なおかつその問題は深刻であるが、
3 それをすればその問題が防げる。
B)デメリットの3要素
1 それをすると新たな問題が生じ、
2 なおかつその問題は深刻であるが、
3 それをしなければその問題は起きない。
上記の考え方を「宿題」に置き換えると、例えば以下のように整理することができます。
A)メリットの3要素
1 宿題がないと学習が定着せず、
2 学習が定着しなければ学力が下がるが、
3 宿題があることで学習を定着させることができる。
B)デメリットの3要素
1 宿題によって生徒の自由な時間が奪われ、
2 睡眠時間を削らざるを得ない状況に陥るが、
3 宿題がなければ生徒の自由な時間が奪われることはない。
なお、他にも「宿題」に関するメリットとデメリットが考えられるので、ぜひI先生もそれぞれの3要素をリストアップしてみてください。
3.メリットとデメリットへの反論――表面的な理由だけで、宿題の妥当性を判断しない
次に、3要素に対する「反論」を、以下のように整理します。
C)メリットへの「反論」の3要素
1 その問題はそもそも生じないのでは?
2 問題が生じたとしても、大きな問題ではないのでは?
3 そもそもその方法では問題が解決しないのでは?
D)デメリットへの「反論」の3要素
1 新たな問題は生じないのでは?
2 新たな問題が生じたとしても、大きな問題ではないのでは?
3 その問題は他の理由で既に生じているのでは? あるいは、それに関係なく今後その問題は自然と生じるのでは?
先ほど挙げた例に対する「反論」としては、次の内容が考えられます。
C)メリットへの「反論」の3要素
1 宿題がないと学習が定着せず ←(反論)宿題がなくても、ある程度は授業内で学習が定着するのでは?
2 学習が定着しなければ学力が下がるが ←(反論)宿題をするだけで伸びる程度の学力はたいして重要ではないのでは?
3 宿題があることで学習を定着させることができる。 ←(反論)ほとんどの生徒が宿題の答えを書き写して採点したら、それを提出したところで学力は上がらないのでは?
D)デメリットへの「反論」の3要素
1 宿題によって生徒の自由な時間が奪われ ←(反論)1日30分程度の分量であれば、そこまで時間は奪われないのでは?
2 自由な時間が奪われると睡眠時間を削らざるを得ない状況に陥るが ←(反論)30分程度の睡眠時間が削られても特に問題ないのでは?
3 宿題がなければ生徒の自由な時間が奪われることはない。 ←(反論)宿題ではなく、スマートフォンを見たりゲームをしたりする時間が長いことが原因で睡眠時間が削られているのでは?
4.「妥当性」を求めて判断する――宿題の要不要は、感覚ではなく根拠によって決める必要がある
最終的には、メリットとデメリット、およびそれぞれの「反論」を比較し、どちらの優位性が高いかを見極めながら要不要を判断します。そして、それを判断した後は具体的な方策を考えることになりますが、その際もディベート思考を用いてメリットとデメリットを比較し続けます。
もちろん、要不要の判断をするためには根拠が必要で、根拠には「妥当性」が求められます。教育業界はその「妥当性」を示すことが非常に難しい業界でもあります(例えば、模試の平均偏差値が2ポイント上がったからといって、それが何によるものなのかは判断しづらい)。しかし、「妥当性」を示そうとする姿勢はどの業界においても必要不可欠であり、「何となく成績が上がった」といった感覚のみで教育に従事することは避けなければいけません。宿題の要不要を考える際にも、それによってどのような効果が得られたのか、あるいはどのような問題が起きたのか、取り組み結果のデータ等を基に丁寧に分析する必要があります。
(分析の具体例は最後にご紹介します)
5.モヤモヤを整理する足場の問い――構造化を利用して「宿題の意味」を問い直す
I先生が宿題についてモヤモヤしている点の1つとして、「難易度が高くて分からない」といったことを生徒が思ってしまうことで、その教科に苦手意識を持ってしまうのではないか、と懸念があるのではないか、と感じます。また、「メリットとデメリットの3要素」で問題を整理した中で、デメリットの1や、メリットの3の反論などについても気になっているのではないか、と推測します。そこで、以下の8点について一度、考えていただきたいと思います。
a.生徒は、「宿題の目的」を真に理解できていますか?
b.生徒は、取り組む内容に「自分との接点」を見出すことができていますか?
c.上記a、bを満たしていない場合、教師はどのようにアプローチするべきだと思いますか?
d.取り組ませようとするその宿題は、生徒の学習習慣の確立、あるいは学力の定着に効果的だと言えますか?
e.言えない場合は、どのような宿題であれば効果的だと思いますか?
f.取り組ませようとするその宿題は、生徒の学力に見合った内容ですか? また、取り組むために過度な負担はかからないですか?
g.どのような難易度と頻度の宿題であれば、過度な負担がかかることなく、学力が伸びると思いますか?
h.宿題を廃止した場合、生徒の学力は低下しませんか?
「今のやり方では意味がないからやめる」のではなく、「どうすれば意味のあるものになるのか」ということを、まずは粘り強く考えることがポイントだと思います。その上で、「どうやっても意味が感じられない」あるいは「意味のあるものにすることができない」のであれば、勇気を持ってこれまでの取り組みに見切りをつけることも1つの手だと思います。
6.宿題は、設計次第で「作業」から「学習」に変えられる
私の担当教科は国語なのですが、「週末課題としてテキストの古文を1題解き、自己採点をして月曜日に提出する」といった宿題はほとんど意味がないと思っています。それはI先生がご指摘されている通り、多くの生徒は模範解答を書き写して採点しているだけだからです。もちろん、授業で学んだことを定着させるために宿題を出したい、という教師側の思いは理解できますし、私も同じ思いで仕事をしています。ただ、そのような宿題はやはりほとんど意味がないと思うので、いま一度宿題のあり方を見直し、新たな形でデザインすることができないか模索することにしました。
そうしてデザインしたのが、「教師がテキストの解説動画を作成・配信し、生徒はその動画を視聴しながら本文の重要な箇所にチェックを入れて各自で採点し、取り組んだテキストの写真をオンラインで提出する」という方法です。
私はそのオンデマンド型学習支援を2020年度から実施しています。それはもともと、コロナ禍の学校閉鎖によって学習の機会が奪われたことに対する学習支援が必要だと思ったことと、家庭の事情によって塾に通える・通えない生徒の教育格差を学校の教師として少しでも是正したいという思いから始めた取り組みでした。生徒たちの学力向上に一定の成果を出すことができたため、「学習の定着」を目的に、現在も継続して実施しています。
1年次は全生徒を対象とし、週に1回のペースで取り組んでいます。動画の視聴と解答は生徒の好きなタイミングで行うことができることに加えて、週1回40分程度と、過度な負担にならないような宿題のやり方をデザインしました。また、生徒によっては投げやりな気持ちで取り組んでしまうこともあるかと思います。しかし、仮に模範解答を書き写したとしても、動画を視聴しながら本文の重要な箇所にチェックを入れる作業をしたことを写真に撮って提出しなければいけないため、その行動を繰り返すことで「この重要語句、なんか見たことあるな」という状態に自然となっていく点がポイントです。
1年後に学習の振り返りを行ってみると、「いつもきちんと取り組んでいる」が22%、「きちんと取り組んでいることもあるが、たまに投げやりになってしまっている」が74.9%、「正直、解答を写すなど、自分で考えて取り組めていない」が3.1%でした。ただし、「身になっている実感がある」と答えた生徒は全体の85.2%と、8割以上の生徒がこの取り組みに意味を感じているということが分かりました。
また、2年次からは「個別最適な学び」を念頭に置いて選択制の学習支援として実施し、約半数の生徒が自主的に参加しました。そのように、どのような取り組みなのかを知ってもらうためにも、最初は一律の宿題にして、徐々に「やりたい人だけがやる」という形に移行することも1つの手だと思います。
なお、解説動画を配信するために教師の労力が大きくかかってしまうと思われやすいのですが、1度撮影してしまえば次年度の同学年の生徒たちへの学習支援を行うための資産として何度でも再利用することができるため、従来のように教師が採点をしたり、スタンプを押して返却したりするような宿題よりも、むしろ省エネで持続可能な実践だ、と私は思います。
その取り組みを分析した資料を以下に載せますので、興味があれば以下のURLよりご覧ください。
I先生の実りあるご実践を陰ながら応援しています。
https://www23.sapporo-c.ed.jp/moiwa/index.cfm/1,15784,c,html/15784/20250226-085815.pdf
オススメの本:『武器としての決断思考』(瀧本哲史、講談社)

