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まちの魅力に触れ、まちについて調べ、考えることを通して、将来にわたってまちとかかわる子どもを育てる
神奈川県 相模原市

2026/03/15 09:00

2021年4月、全国初となるシビックプライド(*1)の醸成を目的とする条例を施行した相模原市。子どもたちにも自分が暮らすまちに誇りを持ってほしいと、市の職員は各校への出前授業を積極的に行っている。条例を制定した背景やシビックプライドの醸成に向けた施策、出前授業について、市長と担当者に話を聞いた。
*1 「シビックプライド」は株式会社読売広告社の登録商標。
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相模原市 概要

神奈川県北部に位置する政令指定都市。東京都町田市や八王子市と隣接する。都心へアクセスしやすい利便性と、5つの人造湖や山間部などの豊かな自然を併せ持つ。7つの大学・短期大学や、JAXA(宇宙航空研究開発機構)相模原キャンパスなどがあり、学術研究も盛ん。市内にリニア中央新幹線の駅を設置予定。

人口 約72万1,000人 面積 328.91㎢
市立学校数 小学校68校、中学校35校、義務教育学校2校
児童生徒数 小学校約3万1,600人、中学校約1万5,800人 教員数約3,400人

お話を伺った方

本村賢太郎(もとむら・けんたろう)

市長

長島正浩(ながしま・まさひろ)

市長公室政策部広聴課 総括副主幹

成澤正成(なりさわ・まさなり)

市長公室シティプロモーション戦略課 総括副主幹

1.151自治体中149位。その衝撃からシビックプライドの醸成に着手

相模原市は、2018年の民間調査によるシビックプライドのランキングで151自治体(*2)中149位だったことをきっかけに、シビックプライドの醸成を目的とする条例の制定に向けて動き出した。

*2 関東圏(1都6県)と関西圏(2府4県)における人口10万人以上の151自治体。

シビックプライドは出身地か否かに限らず、地域に住む人、その地域で働く人、学ぶ人、その地域を訪れる人などが、地域に対して「誇り」や「愛着」、「共感」を持ち、地域のために自らかかわっていこうとする気持ちを表現した言葉だ。そのシビックプライドが低迷している状況に強い危機感を抱いた本村賢太郎市長は、当時務めていた衆議院議員を辞職して市長選挙に出馬。見事、当選を果たした。

「50年以上このまちに暮らす中で、都市の利便性と自然の豊かさを併せ持つ暮らしやすさが、まちの最大の魅力だと感じていました。加えて、市内には最先端の宇宙開発の研究に取り組むJAXA(宇宙航空研究開発機構)相模原キャンパスがあり、リニア中央新幹線の駅も設置予定と、経済的なポテンシャルも秘めています。そうした素晴らしいまちの魅力をもっとPRし、シティプロモーションを通じて全国から選ばれるまちにしたいと考えました」

2.大切なのは、市の魅力に気づくためのきっかけづくり

本村市長は2019年4月の就任後、、自治体政策学が専門の関東学院大学・牧瀬稔教授のアドバイスなどにより、シビックプライド推進部を設置し、シビックプライドの醸成に着手。青年会議所や観光協会のメンバー、公募で集まった市民や学生で構成される委員会を設置し、多角的な視点で施策を検討した。2021年4月には、「さがみはらみんなのシビックプライド条例」を制定・施行し、続いてシビックプライドを高める取り組みを効果的かつ計画的に進めていくための「さがみはらみんなのシビックプライド向上計画」を策定した。

「私がトップセールスを行い、職員一人ひとりがシティプロモーションの視点を持って日々の情報発信を行う。そして、市民だけでなく、在勤・在学の人々にも本市の魅力を見つけ、発信していただく。そうした周囲を巻き込む発信を目指して条例を制定・施行し、計画をまとめました」(本村市長)

市長公室政策部広聴課の長島正浩氏は、条例や計画の制定の過程を次のように振り返る。

「市民へのオープンハウス(*3、写真1)やシンポジウム(写真2)を通じて、本市の魅力に関する多くの声を集めました。特に多かった『都市でありながら、自然が豊か』という声は、計画ではメインに打ち出しました。本市は市域が広いため、地域ごとに異なる魅力があります。オープンハウスでの対話は、市民が自分のまちの新しい魅力に気づく機会にもなりました」

*3 自治体などが、計画中のまちづくりの案についてパネル展示や対面での説明などを通じて情報提供するとともに、アンケートなどで市民からの意見を聞く「対話型説明会」のこと。

写真1 駅前や商業施設、公園などでオープンハウスを実施。市の魅力やシビックプライドに関するアンケート調査には延べ499人が回答した。

写真2「さがみはらファン倍増大作戦!」と題してシンポジウムを開催。JAXA宇宙科学研究所長、相模原市観光大使、同市出身の俳優、本村市長が、市の魅力の発信強化をテーマに語り合った。

「さがみはらみんなのシビックプライド向上計画」の中でアピールポイントに掲げたのは、「子育てしやすいまち」「都市と自然のベストミックス」「宇宙を身近に感じられるまち」「スポーツに親しめるまち」の4つだ。例えば、「都市と自然のベストミックス」が奏功した象徴的な事例には、コロナ禍におけるキャンプを軸とした観光施策がある。同市に点在するキャンプ場で平日の割引などのキャンペーンを展開したところ、密を避けるレジャーの需要と都心から車で約1時間という利便性が合致し、市内外から利用者数が大幅に増加。併せて認知も広まり、次第に関東近郊のキャンプ場としての人気が定着して関係人口の増加につながった。

 

市長公室シティプロモーション戦略課の成澤正成氏は、シビックプライドの醸成について次のように語る。

「シビックプライドは強制するものではありません。本市の施設を利用したり、地域の行事や活動に参加したりするといった『きっかけづくり』を大切にしながら、愛着や誇りを自然と育み、本市とのかかわりが続く中でそれらが深まれば、移住・定住につながっていくというスタンスで取り組んでいます」

3.出前授業を入り口に、まちの魅力を自ら見いだす

未来のまちをつくる子どもたちが市の魅力に気づくきっかけづくりとして実施しているのが、市の職員による出前授業だ。その中にはシビックプライドをテーマにしたものもある。出前授業を実施してほしい場合は、学校からシティプロモーション戦略課に直接依頼する。教育委員会を介さずに学校と同課が日程や内容を調整できる仕組みにするとともに、各校のニーズに合わせて柔軟に実施している。

出前授業の形態は、市の魅力や資源などを伝える講義やグループワークを行うワークショップ、後日実施される発表会での講評など、多岐にわたる。2021年度から開始し、これまで次のような出前授業を実施した。

大沢小学校では、6年生が「英語で相模原市のよさを発信しよう」をテーマとする出前授業を受けた。市の職員による講義の後、ワールドカフェ方式でグループのメンバーを替えながら、英語で相模原市のよいところを伝え合った。

また、谷口台小学校では、5年生が出前授業で「市への愛着・誇りを高めるためにはどうすればよいか」について考えた。そこでは、市内3つの区で同時に花火を打ち上げ、市民が同時に空を見上げれば、その瞬間の共感からシビックプライドが高まるのではないかという案が出て、その実現に向けて児童が話し合った(写真3)。

写真3  谷口台小学校の5年生は、どうすれば3つの区で同時に花火を打ち上げられるか、様々な関係者に話を聞いた。

生徒たちの劇的な変化を目のあたりにしたこともあると、長島氏は語る。ある中学校の地域学習で、調べ学習やフィールドワークの集大成となる発表会が行われた時のことだ。

「初めは『相模原によいところなんてない』と、投げやりな態度だった生徒たちが、授業での活動を通じてまちの特色に目を向けるようになり、最後には『相模原にしかないよさがたくさんある』と、堂々と胸を張って発表していました。その姿を見た時は思わず涙ぐんでしまいました。まちを知り、まちにかかわり、まちのことを自ら考える。その一連のプロセスを通じて、地域のことを自分事として捉え、自分の言葉でアピールする力が育まれるのだと実感しました」

出前授業は2024年度は小・中学校合わせて25回実施され、着実に広がりを見せている。

4最先端の研究開発を支える人たちから諦めない姿勢を学ぶ.

JAXA相模原キャンパスは、施設見学や研究者による講演会、子ども向けのワークショップなどを実施している。それがシビックプライドの醸成とともにキャリア教育にもつながっていると、成澤氏は語る。

「JAXAの研究者の方々は、研究開発の厳しさや苦労、ミッションを達成した際の喜びなど、様々なエピソードを率直に語ってくださいます。同じまちに、「はやぶさ」「はやぶさ2」「SLIM」といった、世界から注目されるプロジェクトを成し遂げた人たちがいることは、市民にとっても大きな誇りだと思いますし、宇宙開発を身近に感じられるだけでなく、どんな困難にも決してくじけず、チームで力を合わせて目標を達成するといった姿勢を学ぶ、最高の教材となっています」

同市では宇宙開発の進展やリニア中央新幹線の新駅設置予定を追い風に、イノベーション創出の機運が高まっている。同市はJR東海と連携し、市内外の企業や研究機関等の交流による新たなイノベーション拠点である「ファンタテックラボ」を開設。神奈川県も市内の主要駅である橋本駅前に宇宙関連企業の交流拠点である「KANAGAWA Space Village」を設置した。そのように、官民一体で未来を創るまちづくりを後押ししている。また、市内には7つの大学・短期大学があり、その1つである麻布大学とは官学連携による動物愛護センターの整備計画が進むなど、学術資源を生かしたまちづくりが進行中だ。

「本市はプログラミング教育を含む情報活用能力の育成にも注力しています。今後は企業や大学、研究機関との連携をさらに深めていきたいと考えています」(本村市長)

一連の施策の成果は確かな数字として表れている。2020年のシビックプライドの総合順位は78位に上昇し、その後も70位台を維持(図1)。さらに、子育て支援などが手厚い東京都に隣接しながらも近年、人口の転入超過数は全国において上位を維持している(図2)。

図1 シビックプライド 相模原市の総合順位
※「シビックプライドランキング調査」(YOMIKO都市生活研究所)を基に編集部で作成。

図2 相模原市 転入超過数
全国順位は転入超過数の多い市町村(東京都特別区部は1市として扱う)としての相模原市の順位。
※総務省「住民基本台帳人口移動報告」を基に編集部で作成。

同市はこれからも、市にかかわる一人ひとりのシビックプライドの醸成を大切にしながら、まちづくりを推進していく考えだ。

 

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