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新世代toi-time 第12回テーマ「疑問にフタをしてしまう理由」
問い「なぜ疑問にフタをするようになるのか」

2026/05/19 09:00

L先生からの問い
幼い頃には「何で?」という疑問をたくさん持って過ごしていたはずなのに、学年が上がるごとにそうした疑問は減り、違和感はあっても「そういうものだよね」と受け入れながら子どもたちは生活するようになります。疑問にフタをしてしまう理由と、そうならないための手立てを教えてほしいです。

コラム執筆者

市立札幌藻岩高校
對馬光揮(つしま・こうき)

コラム末で、筆者が日々の授業実践や学びの記録を発信するウェブサイトを紹介しています。

考えさせられる「問い」をありがとうございます。このコラムでは、はじめに「疑問にフタをしてしまう理由」として考えられることを3点お示しした後、そうしたマインドセットを変える取り組みについて、先日私が実際に行ったワークを取り上げて説明したいと思います。

1.生きやすさを優先する影響ーー「疑問を持つ」ということは、コストの高い営み

疑問、つまり「問い」を持つということは、答えに辿り着くまでに一定の時間や労力を必要とする営みだと言えます。

しかし、幼い頃の「疑問」は自分自身に向けられたものではなく、大人から答えを教えてもらうために発せられるものであり、そもそものコストがかからないものです。だからこそ子どもは自分の「疑問」を気軽に口にするわけですが、学年が上がるごとに、「問い」に対する答えは自分たちで見つけていくしかないということを理解していきます。そのため、そのようなコストをかけることに見切りをつけ、「まあ、そんなものなんだろう」と今ある物事を丸ごと受け入れて生活するようになるのだろうと推察されます。

これは、社会に適応した結果として生じる変化であり、知的好奇心が失われるというよりも、疑問にフタをすることである意味での「生きやすさ」を得ているのだと私は捉えています。

2.空気を読む影響ーー疑問は口にしづらい

また、場の雰囲気や人間関係への配慮を重視し、「空気を読む」日本的なコミュニケーションの特徴も、疑問にフタをする要因の一つとして挙げられます。

同様のことは私たち大人の間でも起きていますよね。会議では、多くの参加者が内心で「おかしい」「問題がある」と感じていても、実際には誰も異議を唱えず、議案がそのまま承認されてしまうことも少なくありません。後になって問題が浮き彫りになった際、当事者たちは「反対できる空気ではなかった」「疑問を口にできなかった」と口々に言います。

それは子どもたちも同様で、クラスでの話し合いの場で、ある意見に違和感を持った生徒がいたとしても、そうした疑問を口にすることなく、反対意見を出さないまま本人にとっては不本意な意見がクラスの結論として採用される、という現象は起き得ることです。

そのように、学年が上がるごとに「空気を読む」ようになるのが、疑問にフタをする要因の一つだと考えられます。

3.学校教育という制度による影響ーー疑問はノイズとして処理される

哲学者のイヴァン・イリイチは、学校を「制度に依存する消費者を生み出す装置」だと批判しています。知識が教師という専門家から提供される「サービス」のように扱われることによって、生徒は自ら問いを立てる主体ではなく、あらかじめ用意されたカリキュラムという「商品」を消費する存在へと位置づけられてしまうと指摘するのです。

現在の学校がそうした場所であると言いたいわけではありませんが、学校教育という制度そのものにそうした側面が存在してきたことは指摘されています。そのような環境で過ごす子どもたちは、無意識のうちに要領よく正解を求めようとし、「これって何でなんだろう?」という疑問が浮かんでも口にせず、余計なことを考えている暇があるのなら「与えられた問題」の正解をすばやく見つけようとする、そうした習性を身につけてしまうのかもしれません。

与えられた問題の正解をすばやく見つけること(情報処理の速度)が求められる環境では、自分の中から湧き上がる「疑問」は、効率を妨げる「ノイズ」として処理されてしまうのです。

4.それでもなお、「問い」を持つことは大切であるーー入試制度に板挟みされながら

現在、社会的にはそうした価値観にも変化が訪れつつあります。クリエイティブな営みには「問い」が必要であり、批判的思考力および創造的思考力の育成、そして「問い」をデザインすることが重視される時代になりつつあることは周知の通りです。

だからこそL先生は今回の「問い」を寄せてくださったわけですが、残念ながら高校入試や大学入試は、基本的にそうしたクリエイティビティを求めていませんよね(求めていることもあるので「基本的に」という言葉を添えさせていただいたことをご理解ください)。入試では「疑問」を挟み込む余地が限られており、情報処理の速度が最優先事項とされているにも関わらず、子どもたちに「問い」を持つよう要請するのは、生徒にとって非常に酷なことだと思われます。

しかし、それでもなお、私は生徒たちに「問い」を持ちながら学んでほしいと切に願っています。それは、「問い」こそが自分の人生を切り拓き、世界をよりよくするものだと信じているからです。

そこで、「疑問は口にしていいし、『問う』とは面白いことなんだ」と思ってもらうためにはどうすればよいのか、生徒のマインドセットを変えるために先日行ったワークを以下にお示ししたいと思います。

5.「問い」の面白さに気づくワーク

はじめに、「問う」とは「興味関心の表れ」であることを生徒たちと確認しました。生徒たちはそれまでの経験から「問う」ことに抵抗感を覚えているかもしれませんが、「興味関心」を持つことの大切さは理解しているはずです。そこで、まずは「聞き方」をテーマとして、そのよし悪しを体感してもらうワークを行いました。

そのワークではまず、「悪い聞き方」として、「①無表情」「②相鎚をしない」「③イエス・ノーの質問だけする」といった3点を意識してペアで話してもらいました。そのようにあえて「悪い聞き方」をしてもらった後、「よい聞き方」として「①うなずく・反応する」「②『どうして?』と話を広げる」「③相手の発言を拾って次の質問につなげる」ことを意識してペアで話してもらいました。そうすることで、「どうして?」と「問う」ことは失礼なことではなく、他者に対する興味関心の表れであり、コミュニケーションを促進するものだということを認識してもらいました。

その後、シンプルな質問を「相手の考えを引き出す質問」に変えるワークを行いました。例えば、「今、学校は楽しいですか?」というイエス・ノーで答えられるシンプルな質問を、「学校の楽しさを10点満点で表現するとしたら、何点ですか?」という質問に変え、「7点」という回答をもらったとしたら、「どうして6点でも8点でもなく、7点にしたのですか?」と追加で質問してもらいました。あるいは、「小中高の楽しさをグラフで表したら、どのようになりますか?」といった質問や、「もしこの学校を志望している中学生が目の前にいたら、何と答えますか?」といった質問も例示し、点数化したり、グラフ化したり、喩えてみたりすることによって、「問い」をデザインする時間を取りました。

最後に、「相手の価値観に触れるための質問」をペアで考えてもらい、その質問に対して教師が本気で回答する時間を取りました。生徒たちからは「先生にとって、『よい人』『悪い人』とはどのような人ですか?」「もし何でも手に入れられるとしたら、先生は今、何が欲しいですか?」といった質問が出てきました。どの質問もこちらの思考を刺激するものだったので、「よい質問だね」「悩ましい質問で面白いな」とリアクションしながら、「問う」ということは面白いことなんだということを、生徒たちと体感する時間になりました。

6.違和感・疑問・問いが世界を変える

他者に対して「なぜ?」「どうして?」と「問う」ことの重要性が認識できれば、自分自身や世界に対して「問い」を持つことのハードルも徐々に下がってくるはずです。興味関心が「問い」につながり、その答えを探す営みの面白さや意義深さを様々な場面で体感しながら、「『問う』って面白い!」と思ってもらえるように、生徒たちのマインドセットを変えていくことが大切だと私は考えています。

「与えられた問題」や「絶対的な正解のある問題」から一度距離を取り、疑問を言葉にしてみる。そして何より、教師自身が「分からなさ」を生徒に示しながら、「みんなで一緒に考えて、問いをつくろう」というオープンな姿勢でいることを私は意識しています。

マインドセットの転換は時間のかかることですが、教育に携わっていて面白いといつも感じることは、生徒たちの柔軟性と変化の速さです。声かけ一つで、あっという間に生徒たちは成長します。疑問にフタをしてしまう要因は沢山ありますが、歴史を振り返ってみると、些細な違和感が世界を変えるきっかけであったはずです。「違和感」や「疑問」を見過ごさずに、「問い」を大切にする。そのような空間を生徒とともに作っていきたい、と私は考えています。

なお、L先生からは「問いのつくり方」についてもご質問をいただいたので、次回のコラムで扱いたいと思います。

オススメの本:『「当たり前」を疑う100の方法 イノベーションが生まれる哲学思考』(小川仁志)

對馬が授業実践や学びの記録を発信しているウェブサイト:マナブベイ

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