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教育長の視点~その先にあるもの~

第16回 
成功体験という思考の偏りをどう超えるか 〜教育行政×学校経営の知見から解く、思考の「漏れ」を防ぐ思考法〜
兵庫教育大学トップリーダーセミナー講師 新潟県・私立新潟第一中学校・新潟第一高校校長 池田浩

2026/08/15 09:30

全国の教育長に教育施策の立案の視点について尋ねる本コーナー。第16回は少し趣向を変え、教育長や校長などが対象の「教育行政トップリーダーセミナー」(主催:兵庫教育大学。*1)の講師を務める、新潟県・私立新潟第一中学校・新潟第一高校の池田浩校長に多くの教育長を指導・支援してきたからこそ分かる、これからの教育長に求められる視点について、話を聞いた。

*1「教育行政トップリーダーセミナー」に関連した記事は、本誌2025年度Vol.2の特集の有識者解説(P.5−8)に掲載しています。左記の文をクリックしてアクセスしてください

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お話を伺った方

池田 浩(いけだ・ひろし)

新潟県・私立新潟第一中学校・新潟第一高校校長、
前新潟市教育委員会教育次長、
兵庫教育大学トップリーダーセミナー講師
新潟県・新潟市の公立中学校及び新潟大学附属新潟中学校に技術科教諭として勤務後、公立中学校の教頭、校長を歴任。2012年度からは新潟市教育委員会の指導主事等を務める。2020~2023年度に教育次長を務めた後、2024年度に現任校の副校長に着任し、2026年度から現職。教育委員会在職時から、全国の自治体で教育委員会部・課長や校長等を対象としたセミナーで講師を務めている。

聞き手

齋藤輝之(さいとう・てるゆき)

VIEW next編集部 小中領域担当責任者
高校、大学、行政、社会人領域を担当後、文教総研研究員を経て2023年度より現職。

1.教員出身者として抱いた教育行政への使命感

<齋藤>池田校長は新潟市教育委員会教育次長などを歴任されていますが、これまでのご経験をお聞かせください。

<池田>私は新潟県や新潟市の公立中学校の技術科教諭から教頭、校長を経て、新潟市教育委員会に12年間在籍しました。その間に学校人事課課長を2年間、教育次長を4年間務めました。

教育委員会に在職中は、全国的なニュースになるような教職員の不祥事や子どもの痛ましい事件が発生しました。その一つひとつに、学校現場と協働して懸命かつ誠実に対応しました。教育委員会に異動した教員の中には「学校現場に早く戻りたい」という人が少なからずいますが、私の場合、好むと好まざるとにかかわらず、様々な難局を乗り越える中で、「学校現場を知る者だからこそ、教育委員会で果たすべき役割がある」という気持ちを抱くようになりました。

新潟市では教育長は行政職出身者が務めます。私は教員出身者の実務トップである教育次長として、教育長によりよい施策などを進言するという使命感を持って職務にあたりました。

2.成功体験は時に思考の偏りにつながる

<齋藤>数年前から教育長や校長を対象とした「教育行政トップリーダーセミナー」の講師を務められていますね。

<池田>はい。元々、兵庫教育大学には改革意欲が高く、勉強熱心な教育長を対象としたセミナーがありました。それを学校の管理職も対象とした内容に刷新する機会があり、そこから私はかかわっています。現在は受講者に教育のトップリーダーとしてのマネジメント能力とリーダーシップの獲得を目指してもらっており、私は図1のマネジメントの②分析を中心に、全パートの講師を担当しています。分析は、セミナーの刷新を通じて私自身にも多くの気づきがあった分野であり、それらを伝えたいという思いがあります。

図1:3つの場面に対応するマネジメントの要素
マネジメントは問題解決を図るための6つのプロセスで構成される。その中で最も大切なのは「情報収集」だ。教育長に限らず、リーダーになると、「目指す子どもの姿」といった目標設定や、 学力向上策などの施策立案に意識が向きがちだが、問題解決の出発点は現状を的確に把握することにある。多岐にわたる情報を収集できれば、施策の立案時に様々な選択肢を検討でき、現状に即した具体策を導き出しやすくなる。

<齋藤>具体的にはどのような気づきでしょうか。

<池田>受講者の多くは、図1の①の情報収集のワークを行う中で、自分が過去の体験に基づく判断をしていて、いかに憶測や思い込みにとらわれているかに気づきます。ただ、そうした偏りがあること自体が問題なのではありません。重要なのは「自分の思考には偏りがある」と自覚し、その偏りをなくすために、漏れなくダブりなく「MECE」(ミーシー。*2)に考えることです。特に漏れがないことに注意します。

私も中学校の技術科の教諭として経験を積み、管理職にも就きましたが、その成功体験こそが思考の偏りを生む要因になる可能性があるとは、本セミナーにかかわるまでは思いもしませんでした。むしろそれは強みだとすら思っていました。

<齋藤>成功体験に縛られた人は自分がほしい情報しか見えなくなり、周囲もその人にとって耳触りがよい情報しか伝えなくなってしまう恐れがあります。

<池田>その通りです。だからこそロジックツリーなどを活用して物事を客観的かつ俯瞰的に捉える必要があります。例えば新潟市では、GIGAスクール構想を受け、教育委員会と首長部局が連携し、市内のすべての放課後児童クラブにWi-Fiを整備しました。子どもの生活を時間軸や空間軸で網羅的に捉えた結果、学校や家庭だけでなく放課後児童クラブもまた、長い時間を過ごす重要な空間だと気づいたのです。

*2 Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字を取った略称。

3.多様な立場の視点を取り入れ、分析の精度を上げる

<齋藤>思考の漏れをなくすためのコツはありますか。

<池田>問題が起こると、例えば「学力が上がらないから、授業研究をしよう」というように、解決策から考えがちです(図2)。しかし、まずは時間軸や空間軸、あるいは対象の属性(成績層やクラス、出身校など)といった多角的な視点から原因を分析し、問題を構造的に捉えることが必要です。それが見落としていた要因に気づくための有効なアプローチになるからです。

また、その分析を事務職員などの「異なる立場の人」と協働で行うことも極めて重要です。以前、学力向上をテーマにした教員研修を事務職員も加わる形で実施したところ、「副教材が有効に活用できているか、子どもの学力に合っているか」と、教員からは出てこなかった指摘がありました。

視座を上げる努力は不可欠ですが、それでも見えづらい部分は残ります。異なる立場の視点を取り入れることで自分の視野の限界を補い、情報収集と分析の精度をより上げていくことが大切なのです(図3)。

図2:原因分析で陥りがちな例

図3:視座・視点・視野の関係
教育長は視座を上げるとともに、外部の専門家などから考えを聞くことで自分の視野から外れた視点に気づけるようにする。また、校長は学校全体をより広く見るために、立場の違う事務職員などの視点を取り入れることが重要。

<齋藤>教育委員会内でも行政職の職員と教職出身者が対話をすることで視野が広がりますよね。

<池田>どのような人を配置すれば組織における思考の漏れをなくすことができるかを見極める目を養うためにも、リーダー自ら多様な分野の人と交流することが求められるでしょう。

4.スピード感を持ち、3か月スパンで成果と課題を基に手を打つ

<齋藤>私立の中高一貫校の校長として現在、留意している点はありますか。

<池田>本校に着任した2年前に抱いた違和感や課題感を書き留め、それを基に改革に取り組んでいます。私立校には基本的に異動がないため、組織が安定する一方で、物事が停滞しやすくもあります。そこで校務分掌の変更や若手教員の抜擢などで組織を動かし、異動のある公立校ならば自然に生じる新陳代謝を意図的に起こそうとしています。また、ミドルリーダーの会議を毎週開催し、教員間で自校のあり方や目指す生徒像をとことん語り合えるようにもしました。自分たちの願いを言語化して共有し、変革の原動力にすることを目指しています。

そして行政での施策立案の経験を生かし、スピード感を持って改善できるよう、3か月のスパンで施策を振り返って成果を共有し、課題があれば次の手を打つようにしています。今年度の第3期の秋には2027年度の施策の検討を始める予定です。さらに複数いる管理職の役割分担を明確にし、教員が相談しやすい体制も整えました。

今年度は学校の公式SNSを立ち上げ、私自身が本校の魅力を発信し始めました。それは外部へのアピールになるだけでなく、生徒や保護者の愛校心を高め、教員が自校のよさを再確認する機会となることを期待しています。

<齋藤>最後に次代のリーダーへのメッセージをお願いします。

<池田>振り返れば、私が担任時代に生徒一人ひとりに寄り添って指導してきた姿勢は、校長や教育次長としてマネジメントを行う上での土台となっていました。今の仕事は未来の仕事の相似形です。未来の自分を強くする糧が目の前の問題を解決する過程にあると信じて、今の仕事に取り組んでほしいと思います。

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.2
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