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牧瀬先生解説 教育×シティプロモーション 先進事例紹介
第8回
社会課題に挑む自治体を学びのフィールドに、未来を創る人材を、自治体と大学がともに育てる
関東学院大学、福島県、神奈川県三浦郡葉山町
2026/08/15 09:30
自治体の移住・定住促進において重要な鍵を握る「シティプロモーション」について、関東学院大学の牧瀬稔教授が「教育」の視点から解説する本コーナー。今回のテーマは「大学連携」だ。自治体と大学は、教学や研究などにおいて様々な形で連携している。連携の意義や効果を解説するとともに、福島県と神奈川県三浦郡葉山町、両者と連携をしている関東学院大学の事例を紹介する。
解説 社会課題への取り組みや人材育成を目的に、自治体と大学が連携協定を締結
解説者

牧瀬 稔(まきせ・みのる)
関東学院大学 法学部 地域創生学科 教授
日本都市センター研究室、地域開発研究所研究部等を経て、2017年度から同大学勤務。専門は自治体政策学、地域創生、地域政策、行政学。全国各地のまちづくりや政策形成にアドバイザーとしてかかわる。著書に、『牧瀬流まちづくり すぐに使える成功への秘訣』(経済調査会)等多数。
聞き手

齋藤輝之(さいとう・てるゆき)
VIEW next編集部 小中領域担当責任者
高校、大学、行政、社会人領域を担当後、文教総研研究員を経て2023年度より現職。
<齋藤> 前号の本コーナーでは、地域に居住し、その地域の企業で働く人を対象に、自治体が奨学金の返還を支援する制度について紹介しました。それは若者の地域の企業への就職を後押しし、移住・定住につなげる施策です。ただ、制度を活用してもらうためには、若者の意識が地域の企業で働くことに向く必要があります。進学などで地域を離れた人も含め、自治体が早期から若者と接点を持ち、地域の企業のよさを伝えることが重要だと感じました。
<牧瀬> その通りですね。特に地方の自治体にとって、若者の移住・定住は切実な課題で、自治体が地域の企業のインターンシップ制度を支援したり、地域の企業を対象とする就職説明会を大学で開催させてもらったりと、様々な形で若者の地域の企業への就職を後押ししています。そうした活動をスムーズに進めるために、大半の都道府県が域外の複数の大学と就職に関する連携協定を結んでいます。私が勤務する関東学院大学も該当地域の出身者が多い静岡県や沖縄県、新潟県などと就職に関する連携協定を結んでいます。
<齋藤> 教学や研究における連携についてはどうでしょうか。授業や研究活動を通じて自治体を知ってもらえれば、学生との関係もより深まるのではないかと思います。
<牧瀬> 自治体と大学との連携は、学生との関係性の構築だけでなく、地方創生の面でも重要な取り組みです。一般論として、多くの都道府県や指定都市が域内の国立大学や私立大学と連携しています(図1)。大学教員が有する専門的な知見は施策の立案にも活用できますし、大学が地域の課題に研究テーマとして取り組めば、行政とは違うアプローチも期待できます。
<齋藤> 以前、本コーナーで取材した岩手県北上市の職員の方も、「自分たちに足りない知見を大学教員に補ってもらいながら大学の設置構想を練り上げた」と話されていました。一方で自治体との連携は、大学にとってはどんなメリットがあるのでしょうか。
<牧瀬> 連携によって大学は調査・研究の場を確保できます。それは学生にとっては実践的な学びの場であり、人材育成にも直結します。本学も自治体や企業との連携に力を入れており、2014年には産学官連携の窓口を一本化するための「社会連携センター」を開設しました。私は2年前から同センター長を務めています。本学は、福島県や岩手県など、16の自治体と連携協定を結んでいて、年間の連携活動はおよそ300件にも上ります。それほどまでに大学と自治体の連携は両者にとってメリットがあるのです。
事例 福島県、神奈川県三浦郡葉山町、関東学院大学
社会課題に挑む自治体を学びのフィールドに、未来を創る人材を、自治体と大学がともに育てる
自治体と大学との連携はどのような成果をもたらすのか。東日本大震災及び原発事故からの復興と地域の活性化を目的として、8大学と連携する福島県。地域の課題への対応と域内の大学への貢献を目的として、大学連携を推進する神奈川県三浦郡葉山町。そして両自治体と連携協定を結んでいる関東学院大学の三者に話を聞いた。
福島県 概要
全国3位の面積を有する福島県は、東から「浜通り」「中通り」「会津」の3つの地域から成り立ち、気候や風土が異なる。桃や梨といった果物の栽培のほか、稲作や酒造りも盛ん。また、電子・精密機器の製造業や再生可能エネルギー関連産業の育成にも注力している。
人口 約170万人
面積 13,783.90㎢
公立学校数 小学校367校、中学校197校、義務教育学校10校、特別支援学校26校、高校76校
児童生徒数 約16万1,000人
教員数 約1万5,000人

佐藤安彦(さとう・やすひこ)
企画調整部
避難地域復興局 局長

渡辺浩史(わたなべ・ひろし)
企画調整部
企画調整課 課長
葉山町 概要
神奈川県南東部の三浦半島に位置する葉山町は、海と森に恵まれた自然豊かな町。明治時代に御用邸が建てられて以来、皇族や文化人が集う場所としての別荘地文化が育まれてきた。その歴史により、マリンスポーツや独自の食文化などが生み出され、現在は、日本の渚・百選に選ばれた一色海岸などの絶景や絶品グルメを楽しめる、人気の観光地となっている。
人口 約3万1,000人
面積 17.04㎢
町立学校数 小学校4校、中学校2校
児童生徒数 約2,500人
教員数 約190人

山梨崇仁(やまなし・たかひと)
神奈川県三浦郡葉山町町長
関東学院大学 概要
1884年創立。神奈川県横浜市に位置する私立の総合大学。キリスト教の精神に基づく人格教育を継承し、現在は12学部14学科10コース、5研究科を擁する。総合大学の強みを生かした教育や研究活動に加えて、地域・社会連携、国際貢献、スポーツ、文化活動、ボランティア活動などが活発に行われている。
学部 国際文化学部、社会学部、法学部、経済学部、経営学部、理工学部、情報学部、建築・環境学部、人間共生学部、教育学部、栄養学部、看護学部
学生数 約1万1,000人
教員数 約1,200人

小山嚴也(こやま・よしなり)
関東学院大学学長
複合災害からの復興と課題対応に向けて大学と連携
福島県は首都圏の大学を中心とした就職支援に関する連携協定に加えて、包括連携協定を8大学(福島大学、学校法人同志社、広島大学、東京大学、東北大学、関東学院大学、神田外語グループ、長崎大学。*1)と締結している。その主な目的は、東日本大震災及び原発事故からの復興と地域の活性化にある。福島県企画調整部避難地域復興局の佐藤安彦局長は次のように語る。
「日本のどの自治体も経験したことがなかった震災と原発事故という複合災害に見舞われた本県は、復興だけでなく、地域の活性化や風評対策などの課題が山積しています。県内外の大学や企業などが持つ知見やネットワークをお借りできなければ、本県が直面している多岐にわたる課題は乗り越えられないと考えています」
県の審議会などに大学教員が専門家として参加すれば、彼らから行政の枠組みにとらわれない提案や法制度面での適切な助言を得ることができる。また、学生の柔軟な発想と行動力は復興活動を前に進める活力になるという。
*1 大学名は協定の締結順。
若き起業家が活躍する福島県の今を伝え、人材育成につなげる
福島県が神奈川県にある関東学院大学と連携協定を結んだ背景には、震災後、研究で同県の状況を調査していた小山嚴也(こやま よしなり)学長(当時副学長)と関係性を深めていたことがある。
「『学内のイベントで福島県の米を使った食事を学生に提供することで、少しでも風評被害の解消の役に立ちたい』という申し出をいただいたのが、小山学長との出会いです。その後も、施策の提言を目的とした現地調査に学生が参加したり、本県の特産品フェアが関東学院大学で開催されたりしました。そのようにして関係を深めていく中で、小山学長から『福島県の課題は全国の課題であり、本学として本腰を入れて取り組みたい』という提案をいただき、2022年に連携協定を締結しました」(佐藤局長)
関東学院大学の法学部では、連携協定先の自治体が講師を務める専門科目「地域創生特論」(*2)が設けられている。それは単発ではなく、1自治体が全7回を受け持つ科目で、福島県も2023年度から同科目を担当。内堀雅雄知事や同県職員が同県の主要施策について解説するほか、県内で新規事業を興した起業家も講師となり、官民の双方の挑戦を学生に伝えている(図2)。
「本県では今、若い世代や県外からの移住者による起業の動きが活発化しています。被災によって地域社会の旧来の構造が揺らいだことで、既存の枠組みにとらわれず、新たな挑戦がしやすい環境が生まれました。間伐材を原材料とした高級割り箸や枕を海外に販売する企業や、離農者から田畑を引き継いで大規模化した米農家など、県内外の注目を集めるビジネスが生まれ、そうした起業家に憧れて本県に移住する人もいます。そのような福島県の今を学生に伝えることで、学生が地域行政について考える機会をつくり、人材育成につなげています」(佐藤局長)
講師を務める起業家もまた、学生に話す意義を感じている(図2)。企画調整部企画調整課の渡辺浩史(ひろし)課長は、「廃炉作業が続く中、震災と原発事故という複合災害の風化を防ぐためにも、地域住民、自治体職員、学生・教員との交流を継続・発展させていくことは県にとっても大きな財産になると考え、今後も大学との連携を図っていきます」と語る。
*2 科目の正式名称には、「地域創生特論(福島)」というように、カッコ書きで授業を担当する自治体名がつく。
学生に生きた学びを提供するとともに、学生の意見を施策に還元
関東学院大学と同じ神奈川県に位置する葉山町は山梨崇仁(たかひと)町長の母校でもあることから、2015年に同大学と包括協定を締結。それにより、大学への連絡窓口が一本化され、連携の依頼がしやすくなったと山梨町長は語る。
「町の様々な課題に関する審議会を開催する際、関東学院大学に各課題の専門家を派遣してもらい、意見や助言をいただいています。例えば個人情報の取り扱いなどは、関連する法制度や社会の見方が年々速く、厳しく変化しています。それに対応するために、専門的な知見を迅速に得られることは施策の立案にも大変重要であり、とても助かっています」
葉山町も同大学の「地域創生特論(葉山)」を受け持ち、町長が全授業を担当。福祉や子育て、防災、ごみ問題など、町の重点施策に関する実例を示しながら、行政の実情を伝えている。毎授業で学生から提出されるレポートを通じて若者の社会や行政に対する見方が把握でき、今後の社会を読み解くヒントが得られていると山梨町長は語る。
「学生から率直な意見を聞くことができるのは、授業を通して定期的に彼らと接しているからです。把握した若者の考え方や志向は、町役場職員の採用面接時に聞く質問に反映したり、人材の見極めに生かしたりしています」
山梨町長は2年前から法学部の専門科目「サスティナブル地域実践論」も受け持っている。同町は「住み続けたい街(自治体)ランキング〈全国版〉」(*3)の1位を2022年から3年連続で獲得し、2025年には環境省主催の「グッドライフアワード」(*4)で環境大臣賞優秀賞を受賞した。そうした受賞につながった町の実践を題材に、学生が持続可能な社会づくりについて考える授業を展開。全14回のうち5回は町役場職員が講師を務め、環境やインフラ、経済など、各分野での持続可能な社会づくりを現場目線で伝えている。
町役場職員にとっては、自身の業務が整理され、担当行政に関する情報をいつでも発信できる態勢が整うとともに、発信に対する学生からの意見を得られる貴重な機会となっている。昨年度に「価値観が多様化する時代における広報活動」をテーマとした授業を行った広報担当者は、自身の取り組みに対して普段接点の少ない若者目線での意見を得られたことがその後の業務に役立ったと振り返る。また、広報紙のタイトルのつけ方や写真撮影の工夫など、それまで感覚的に行ってきたノウハウを言語化する機会にもなったという。葉山町の広報紙は2022年に全国広報コンクール(*5)の町村部で総務大臣賞を受賞した実績があり、授業のために整理した資料は後任への引き継ぎ資料にも活用されている。
「授業は本町の直接的なPRだけでなく、職員の情報発信力を鍛える場にもなっています。一方で私たちが行政の実態を具体的に語ることは学生にとっては生きた学びになり、大学の強みにもつながっていると思います。地方行政を理解する専門性の高い人材が育つことは町の将来を築くパートナーが増えることを意味します。その点からも大学との連携は今後も大切にしていきたいと考えています」(山梨町長)
*3 大東建託株式会社が毎年実施している調査。
*4 環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取り組みを表彰し、認知を広げるためのプロジェクト。
*5 公益社団法人日本広報協会が主催する、全国の自治体の広報誌やウェブサイト等を対象としたコンクール。
課題先進地域での学びを地域社会の活動に生かす
大学は自治体との連携をどう捉えているのか。関東学院大学は神奈川県や横浜市、逗子市、横須賀市など、県内の10自治体と連携協定を結び、地域との関係性を築いているが、それは地域の大学として得られた知見を地域へ還元することを第一に考えているためだ。一方で県外においても、岩手県、福島県、沖縄県西原町・与那原町などと連携協定を結んできた。
「本学は東日本大震災の発生後、宮城県や岩手県、福島県でボランティア活動や調査活動を行ってきました。現地の方と交流する中で聞いた、『被災により、少子高齢化や過疎化、産業・商店街の衰退といった、以前からの課題が一気に顕在化したが、それは10年後、15年後の東京の姿でもある』という言葉が心に刺さっています。沖縄県の貧困や基地の問題も同様です。地域の衰退を止めようと日々努力と工夫を重ねている社会課題の先進地域とも言える現場から私たちは学ぶべきことがたくさんあると感じました」(小山学長)
同大学は学生が地方行政の具体を学ぶ科目として「地域創生特論」を設けている。2026年度は15の自治体が同科目を担当。どの自治体も主に自治体職員が講師となり、実例を基に地方行政の実情を学生に伝えている。首長も少なくとも1回は講師として授業を行う。地方行政のリアルを知ることができると、学生の満足度も高い。
「授業では、逆境の中で知恵を絞りながら社会課題に取り組む自治体職員や起業家が登壇します。佐藤局長のようなバイタリティーあふれる公務員の話を聞けば、公務員にも挑戦心や創造性がいかに求められているかが理解できるでしょう。また、起業家から地域への思いや創業までの経緯、失敗談ややりがいなどを直接聞くことができるのは、学生にとって大きな刺激になります。社会人になってからもその人たちをロールモデルとして起業を目指したり、実際に起業したりすることが期待できます」(小山学長)
現地視察や共同研究も盛んだ。関東学院大学の防災・減災・復興学研究所は2023・24年度に各20人の教員が福島県を視察。それに参加した理工学部の教員が福島国際研究教育機構の委託事業に応募し、採択された。また、横須賀市とはドローンとAIを活用した密漁対策(写真)に取り組み、沖縄県西原町と与那原町とは子どもの貧困問題に取り組むNPOでのフィールドワークを続けている。現場に足を運び、現場をその目で見て、現地の人と交流する。それにより学生は授業で学んだことが実感を持って理解でき、その後も現地で活動する学生もいるという。
「地域に密着した大学だからこそ発揮できる強みがあります。課題先進地域で学んだ知見を、神奈川県を始めとする地域に還元するとともに、教育と研究を循環させていく取り組みを今後も展開していきます」(小山学長)
写真 横須賀市と横須賀海上保安部、神奈川県立海洋科学高校、関東学院大学情報学部は、横須賀市周辺の沿岸で多発する密猟者の検知システムの自動化を目指し、ドローンとAIを駆使した実証実験に協働して取り組んでいる。
本取材を振り返って
<牧瀬>自治体にとっては研究者の専門的な知見が、大学にとっては教員や学生の研究や実証実験のフィールドが得られるといったように、双方にメリットがあるのが自治体と大学との連携です。視察や研究で現地を訪れ、地域の人たちと交流し、その地域のよさを実感すれば、関係人口や交流人口の増加にもつながります。本学の場合は神奈川県議会や横須賀市議会とも包括協定を結んでいます。地方自治体は二元代表制であるため、議員とも定期的に意見交換をし、首長と議会の両面から地方行政への貢献を目指しています。
<齋藤>自治体にとって大学との連携は専門知の導入や人脈の紹介も含む起業の促進につながり、大学での授業を通して若者の感性を取り込む機会にもなっていました。一方、大学は課題先進地域で見いだした課題をテーマに研究し、その成果を地元への貢献につなげていました。自治体とのそうした連携は関東学院大学の小山学長が語るように、「地元から期待される大学」であり続けるための重要な取り組みの1つだと思います。そして、自治体と大学の双方のバリューをいかに高められるかが、持続可能な連携の鍵を握っていると感じました。




