学校教育情報誌『VIEW next』『VIEW next』TOPへ

  • 高校向け
  • 誌面連動
  • 【誌面連動】『VIEW next』高校版 2025年度4月号

【誌面連動】 東京都立多摩高校が実践 対話型校内研修リポート
教職員間で大切にしたのは、最後までしっかり「聴く」こと。
思いやアイデアを率直に出し合い、次年度に向けた熱意を共有

2025/04/18 09:30

「生徒の姿を踏まえて、今年度の実践を振り返り、次年度に挑戦したいことを出し合おう」をコンセプトにした対話型の校内研修を、2025年3月に実施した東京都立多摩高校。教職員からは、「できていることは小さくても大きく褒め、間違いはそっと伝えるようにしたところ、生徒が学習に前向きに取り組むようになった」「スケジュール管理が苦手な本校の生徒が、自分にとって必要な情報を自己管理することができるような仕組みをつくりたい」などと様々な発言があり、互いの思いやアイデアを共有する場となった。対話を大切にした研修をどのように進めたのか、参加した教職員はどのような気づきを得たのか、リポートする。

上村校長にご登場いただいた、教師の学びについての記事はこちら
同校が取り組む自己調整学習についての記事はこちら

学校概要
設立:1923(大正12)年
形態:全日制/普通科/共学
生徒数:1学年約140人
2023年度卒業生進路実績 4年制大は、亜細亜大、桜美林大、杏林大、駿河台大、帝京科学大、帝京大、東京経済大、東洋大、武蔵野大、明星大などに延べ31人が合格。短大・専門学校進学60人。就職38人。

※プロフィールは、2025年3月時点のものです。

校長
上村礼子(かみむら・れいこ)
同校に赴任して2年目。

教務情報部主任
長谷部達郎(はせべ・たつろう)
同校に赴任して2年目。数学科。

生徒支援部
池田 匠(いけだ・たくみ)
同校に赴任して2年目。国語科。

生活支援部
堀口祐弥(ほりぐち・ゆうや)
同校に赴任して1年目。家庭科。

1学年担任
岡田理加(おかだ・りか)
同校に赴任して1年目。英語科。

学校図書館専門員
古屋敷果歩(ふるやしき・かほ)
同校に赴任して1年目。

教職員の声を聴き、次年度の学校経営計画に盛り込みたい

『VIEW next』高校版2025年4月号の特集で、探究学習における生徒や教師の伴走支援などに取り組む識者と対談した上村礼子校長は、自校の教職員の率直な思いや考えを聴き、それらを25年度の学校経営計画に盛り込みたいと考えた。
「ちょうど今、25年度の学校経営計画を策定していたところで、育てたい生徒像やそれを実現するための具体的な方策についての教職員の意見を同計画に盛り込みたいと考えていました。そこでそのための校内研修を企画しました」(上村校長)

【研修概要】
実施日時:2025年3月21日(金)14時00分〜15時00分
参加者:教師18人、養護教諭、学校図書館専門員 計20人
テーマ:24年度の振り返りと、25年度の具体的な方策について〜25年度学校経営計画について対話する〜
進め方:教務情報部、生徒支援部、進路探究部、総務広報部の4グループに分かれ、各グループで、自身の分掌の24年度の振り返りと、25年度の具体的な方策の検討を行った。参加者は、ターム1では事前に振り分けたグループで、ターム2では自分が関心のある分掌のグループに移動し、語り合った。

タイムテーブル

参加者を4つのグループに分け、各グループのテーマを、授業、生徒支援、進路支援、広報活動と、各分掌に関する内容で設定。生徒主体の教育活動を実践していくために、生徒の姿をイメージして、24年度の実践を振り返り、25年度に実践したいことを出し合うことにした。
「研修の内容や段取りは、各分掌の主任4人が話し合って決めました。当初、私がファシリテーターを務める予定でしたが、各主任が対話で聞きたいことを持っていました。そこで、各主任に各グループのファシリテーターを務めてもらうことにしました」(上村校長)

アイデアの共有で、やりたいことがさらに広がる

研修ではまず、上村校長が研修の趣旨を説明した。
「今日これから語り合われる先生方の思いや考えを、25年度の学校経営計画に反映させたいと考えています。生徒の姿を思い浮かべながら、小さなことでもよいので、気づきを出し合ってください」と、上村校長は強調した。
そして、対話のルールとして次の3点を説明し、特に聴く姿勢の重要性を伝えた。

図1 本研修の対話のルール。各グループのテーブルにも、その内容を記した紙が置かれた。

趣旨説明が終わると、早速語り合いがスタート。教務情報部のグループでは、主任の長谷部達郎先生がこう切り出した。
「今年度、様々な活動をする中で、生徒の変化についての気づきが各先生、あったかと思います。まずはそれを付せんに書いて、出し合っていきましょう(写真1)。誰かが書いた気づきを見て、気づいたことがあれば、それも付せんに書いて出してください。振り返りが終わったら、今度は次年度にもっとこうすれば、生徒はこうなるということを、付せんに書いていきましょう」

写真1 各教師は、24年度の実践を通じた生徒の変容について付せんに書き出し、模造紙に貼っていった。

長谷部先生は、「自由に考えを出す」「他者のアイデアは批判しない」「他者の付せんにつけ足し歓迎」などと伝え、「自分のことでもよいですし、周りから見て気づいたことでも大丈夫です。質より量で、まずはたくさんアイデアを出してください。4分間で書いた後、気づきをについて語り合いましょう」と説明した。

一通り付せんに書き終わった後、書いた内容について、グループ内で語り合った(写真2)。「生徒の発言に対して、『その考えはいいね』と褒めつつ、『一方で、この点についてはどうなのかな』と、批判的な見方をぶつけるようにしました。すると、生徒間でもそうした批判的思考でのやり取りがされるようになっていきました」
「授業で毎回、予鈴と同時に小テストを行っていたら、生徒は予鈴が鳴るとすぐに着席するようになりました。授業を落ち着いて行えるようになってきています」

写真2 付せんに書いた内容について、具体的なエピソードも交えながら思いやアイデアを語り合った。

25年度に向けての取り組みについては、学校図書館専門員と理科の担当教師の間で次のようなやり取りがあった。
学校図書館専門員「今年度、各教科の授業で図書館を利用していただく機会があったのですが、次年度に向けて、生徒が授業以外でも図書館に足が向く工夫を考えたいと思っています。例えば、授業で作った成果物を図書館で展示するのはどうでしょうか」
理科の担当教師「物理では3学期に、単元の内容をまとめたポスターを作りました。それを展示すれば、生徒の達成感が高まるのではないかと考えていたところでした」
学校図書館専門員「図書館でぜひ! 先ほど、ICT関連の指導が難しいというお話がありましたが、お時間をいただければ、生徒に情報リテラシーのガイダンスなどもできます」
理科教師「例えば、図書館で調べ学習をするとしたら、情報リテラシーの話をしてもらうことはできますか」
学校図書館専門員「できます! できます!」

対話のターム1が終了すると、教職員は対話を通じて気づいたことをまとめ、Googleフォームに入力して提出した(写真3)。そして、ターム2では、グループのメンバーを替えて対話し、対話が終わるとターム1と同様に気づきをまとめた。最後に、ファシリテーターを務めた各主任が自分の気づきを全体に発表して研修は終了した。

写真3・4 対話を通じて気づいたことを紙に書き込み、Googleフォームにも入力して提出した。

対話を通じて、それぞれが前に進む気づきを得た

今回の研修を通じて、参加者にはどのような気づきがあったのか。

教職1年目の堀口祐弥先生は、次のように話す。
「今日の研修はゴールがなかったため、それぞれの考えやアイデアを自由に出すことができました。新米教師の私は、正直に言って、客観的に物事が見えていない時もあると思います。それでも今日は、先生方が自分なりに考えて実践してきたことに対して、いろいろ見方が提示され、私にとっても視野が広がる貴重な場になりました」

対話が活性化したのは、24年度の取り組みがあったからだと、生徒支援部の池田匠先生は指摘する。
「24年度に上村校長が立ち上げた『将来構想委員会』では、生徒にどうなってほしいか、どんな教育活動をしたいかなど、生徒や学校経営に対する思いや考えを出し合ってきました。また、普段も教職員間でよく話すようになり、分掌間の風通しもよくなりました。そうしたことが、今日のとても話しやすい雰囲気や、熱い語り合いにつながったのだと思います」

生徒の姿を踏まえた振り返りの共有は、自分の考えを改めて確認する場にもなった。1学年担任の岡田理加先生は次のように語る。
「先日実施した介護体験で、最初は乗り気ではなかった生徒が、講師の方々に『よくできたね』『すごいね』と褒められるうちに、前向きに取り組むようになっていきました。今日の研修でも、教師以外の他者からの評価が生徒の達成感や自信につながっている事例がたくさん共有されました。生徒が他者に評価される場の重要性を改めて実感したので、次年度もそうした場をできるだけ設定しようと思いました」

学校図書館専門員の古屋敷果歩先生は、今回の研修に声をかけてもらったことがうれしかったと話す。
「24年度は授業で図書館が利用される中で、先生方が思い描いている授業や学校の形が見えてきました。今日、先生方の実践や次年度にやりたいことを直接聞くことができ、図書館専門員として先生方や生徒をどのように支援することができるのかが見えてきました」

ファシリテーターを務めた教務情報部主任の長谷部達郎先生も、今回の研修を通じて次年度にすべきことが具体化していったと振り返る。
「授業で褒められれば、生徒は達成感を得られます。生徒がそうした体験をすることができる授業をしていきたいといった話が今日、たくさん出ました。学校経営は、教職員の論理で進められることが少なからずありますが、今日の研修では、先生方が生徒の視点に立って考えていることを共有することができました。自分の頭の中にぼんやりとあった、次年度の授業づくりの方針の輪郭が、今日の研修を通じてはっきりしてきました。教職員間でアイデアを出し合うことで、多くの刺激を受けました」

生徒主体の対話が、コミュニケーション活性化の鍵

教職員の振り返りを聴いた上村校長は、「対話を通じて、教職員一人ひとりのエネルギーを共有する場になったと感じました。そうした対話を今後も続けていきたい」と述べた上で、今回の研修が成果を上げた理由として次の3点を挙げた。

○「生徒の姿」を基にした対話
岡田先生は、「生徒の姿を思い浮かべると、何をどうしたいかを考えやすかったので、今後もその視点で、授業づくりや生徒支援を考えていきたいと思いました」と語っていました。その言葉に象徴されるように、対話の中心に生徒を置いたことで、気づきが広がったのだと思います。

○ファシリテーター4人との目線合わせ
今回の研修の企画は、分掌主任の4人の先生方と打ち合わせをして立てました。分掌主任の先生方が研修の趣旨を理解し、自分事化した上でファシリテートしたことが、対話の活性化につながったと思っています。

○対話の前後で、自分の考えをまとめる時間を設定
長谷部先生から、「最初に個人で考えを整理する時間を設けた方がよいのではないか」との提案があり、対話の後だけではなく、冒頭にも付せんに自分の気づきや考えを書く時間を設けました。そうしたことで、先生方は自分の気づきや考えを整理しやすかったようです。

「今日、先生方が出した気づきや考えからキーワードを抽出し、それを基に本校ならではの育成を目指す生徒像や学校像を可視化していこうと考えています。そして、その実現に向かって自校の教職員が互いに補い合い、総体として発揮する資質・能力を明確にすることで、一丸となって進んでいく教職員集団を築いていきたいと思っています」(上村校長)

本記事と連動した誌面『VIEW next』高校版
▶2025年度4月号バックナンバーへ戻りたい方はこちらをクリックしてください。

本記事と連動した誌面『VIEW next』高校版
2025年度 4月号バックナンバーへ戻りたい方は、
こちらをクリックしてください。

Benesse High School Online|ベネッセハイスクールオンライン

ベネッセ教育総合研究所

Copyright ©Benesse Corporation. All rights reserved.