世の中には様々な「勉強法」に関する情報があふれています。しかし、それらの中には、学術的な根拠がはっきりしない情報も少なくありません。このコーナーでは、ベネッセ教育総合研究所のメンバーが、様々な論文の中から見つけた勉強法を隔週でご紹介します。児童・生徒の学びは勿論、大人の学びにも役立つヒントが見つかるかもしれません!

間違えるだけのテストに意味はあるのか

新しいことを学ぶときには、本や講義で内容を理解してからテストを受けるのが一般的です。授業を受ける。教科書を読む。内容を覚える。そのあとに、どれくらい理解できたかをテストで確かめる。この順序が当たり前だと考えられてきました。

そのため、まだ学んでいない段階でテストを出されると、「なぜ? どうせ間違えるだけではないか」「分からない問題を考えるのは時間の無駄ではないか」と感じるかもしれません。子どもにとっても、習っていない問題に答えることは、不安や戸惑いを伴うでしょう。

しかし近年の認知心理学の研究では、学ぶ前にあえて事前テストや事前質問を行うことで、その後の学習効果を大きく高められることが明らかになっています。

もちろん、事前テストの段階では、ほとんど正解できません。ここでの目的は、正解することでも、成績をつけることでもありません。「自分は何を知らないのか」「これから何を学ぶのか」を、学習者自身が意識することに意味があるのです。

問いを持つと、脳は答えを探し始める

「先にテストをして考える」という行為自体が、その後の学び方を変えます。Panらの研究では、事前テストは、学習後に内容を思い出す「事後テスト(想起練習)」と同等か、それ以上に記憶の定着を高めるケースが報告されています。

なぜ、答えられない問題を先に解くことが学習に役立つのでしょうか。

その理由の一つは、学習前に問いを持つことで、脳が「答えを探すモード」に入るからです。何も考えずに読むと、文章はただ目の前を通り過ぎていきます。しかし、先に「なぜこうなるのだろう」「この言葉は何を意味するのだろう」と考えておくと、読む目的が生まれます。

すると、読む前には単なる説明文に過ぎなかったテキストが、「これがさっきの問いの答えか!」と意味を持って立ち上がってきます。自分の予想と正解を比べるため、違いや意外性にも気づきやすくなります。その結果、理解と集中が促進され、内容が記憶に残りやすくなるのです。

この効果は、オンライン学習でも確認されています。講義の前や途中に事前テストを挟むことで、講義中に関係のないことを考える時間である「マインドワンダリング」が減り、最終的なテスト成績も向上することが報告されています。

動画を再生している。画面も見ている。しかし、気づけば別のことを考えている。オンライン学習では、このような「見ているのに頭に入っていない」状態が起こりがちです。動画を見る前に問いを持たせることは、学習者の注意を内容へ向ける強力な手立てになります。

ただし、この方法は万能ではありません。効果は主に、事前に問われた内容や、それに関連する概念に集中して現れます。事前テストを行えば、教材の全てが自動的に理解できるわけではありません。

だからこそ、「何を問うか」が重要です。細かな知識を無数に尋ねるのではなく、学習の中心となる概念や、似た知識と混同しやすい点、誤解しやすいポイントに絞って問いを設定する必要があります。事前テストは、学習者の注意を向ける「案内板」でもあるのです。

生成AIで「考えてから学ぶ」をつくる

現代では、生成AIを活用することで、この手法を手軽に実践できます。これから学ぶ教科書の範囲や資料を示し、AIに「この内容を学ぶ前に解くべき事前テストを3問作って」と依頼するだけです。

例えば、次のような観点から問いを作ってもらいます。

  • 中心となる概念は何か
  • 似た概念との違いは何か
  • どのような場面で使う知識か

大切なのは、すぐにAIへ答えを聞かないことです。まずは自分で予想する。「おそらく、こういうことではないか」と考える。分からなくても、知っていることをつなぎ合わせて答えてみる。そのあとに解説やテキストを読み、自分の予想と正解を比べます。

このひと手間を挟むだけで、受動的なインプットは能動的な探究へと変わります。AIに正解を出してもらうのではなく、学びに向かうための問いを作ってもらう。これは、生成AIを「答えを得る道具」から「自分の思考を動かす道具」へ変える使い方でもあります。

学習において、間違いは避けたいものと思われがちです。しかし、学びの入り口においては、「よい間違い」こそが強力な武器になります。先に間違えるから、自分の理解とのずれに気づく。予想が外れるから、正しい説明に驚きが生まれる。その驚きが、記憶に残るきっかけになります。

読んでから考えるのではなく、考えてから読む。教えてもらってから問いに答えるのではなく、問いに向き合ってから教えてもらう。

この「順序の逆転」が、学びのスイッチを入れ、知識の定着をより深いものにしてくれるのです。

(ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 後藤義雄)

参考文献:
Pan, S. C., & Sana, F. (2021). Pretesting Versus Posttesting: Comparing the Pedagogical Benefits of Errorful Generation and Retrieval Practice. Journal of Experimental Psychology: Applied. https://doi.org/10.1037/xap0000345

Pan, S. C., Sana, F., Schmitt, A. G., & Bjork, E. L. (2020). Pretesting Reduces Mind Wandering and Enhances Learning During Online Lectures. Journal of Applied Research in Memory and Cognition. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2020.07.004

Pan, S. C., & Rivers, M. L. (2023). Metacognitive awareness of the pretesting effect improves with self-regulation support. Memory and Cognition. https://doi.org/10.3758/s13421-022-01392-1

Pan, S. C., & Carpenter, S. K. (2023). Prequestioning and Pretesting Effects: a Review of Empirical Research, Theoretical Perspectives, and Implications for Educational Practice. Educational Psychology Review. https://doi.org/10.1007/s10648-023-09814-5

Pan, S. C., Han, J., & Fung, F. M. (2025). Using Prequestioning as a Hands-On Activity to Support Undergraduate Student Learning. Journal of Chemical Education. https://doi.org/10.1021/acs.jchemed.

Pan, S. C., Schweppe, J., Teo, A. Z. J., Indrajaya, A., & Wenzel, N. (2025). Using ChatGPT-Generated Prequestions to Improve Memory and Text Comprehension. Journal of Applied Research in Memory and Cognition. https://doi.org/10.1037/mac0000254

ベネッセ教育総合研究所

詳しいプロフィールはこちら