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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2025年度 Vol.2

動画を入り口に、学校の魅力を伝える多彩なコンテンツを発信
神奈川県 横浜市

2025/10/06 09:00

横浜市は2025年4月、教育委員会に教育プロモーション担当を設置した。国内最大規模の基礎自治体が教育プロモーションに力を入れる背景は何か、どのような情報発信をしているのか、担当者に話を聞いた。

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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横浜市 概要

市を挙げて多分野でのDX化を推進。教育分野でも、学び・生活のデータを一元表示するダッシュボードを企業と連携して開発し、ビッグデータの利活用を始めた(*1)。

人口 約377万4,000人
面積 438.23㎢
市立学校数 小学校336校、中学校144校、義務教育学校3校、特別支援学校13校、高校9校
児童生徒数 小学校約16万9,000人、中学校約7万5,400人、義務教育学校約2,400人、特別支援学校約1,400人、高校約7,600人
教員数 約1万9,500人

*1 横浜市が取り組む教育データの利活用の事例記事は、こちらからご覧ください。

お話を伺った方

貝田泰史(かいだ・ひろし)

政策経営局シティプロモーション推進室長

林 豪(はやし・たけし)

教育委員会
教育政策統括部教育プロモーション担当部長

1.市税の約5割が個人市民税

人口約377万4,000人の横浜市は2021年度に人口減少に転じた。それまでは社会増が自然減を上回っていたが、2021年度からは自然減が社会増を上回るようになった。同市の市街化区域の約4割は第一種低層住居専用地域で、郊外部を中心に低層の住宅地が広がる。また、東京都に隣接するため、本社機能を持つ企業が少ない。そうした市勢から、市税に占める個人市民税の割合が大きく、市税収入は景気の変動に左右されにくい一方で、人口の増減による影響を受けやすいという状況にある(図1)。

図1 主な大都市の市税収入構造(2025年度予算ベース)
横浜市は、市税収入に占める個人市民税の割合が、同じ政令指定都市である名古屋市や大阪市よりも約10〜20%高い。
※横浜市の提供資料を基に編集部で作成。

そこで、転入・定住促進や、ブランド力の向上に資する情報発信力の強化を図るため、情報発信を担当する「政策局秘書課報道担当」「市民局広報課」「文化観光局横浜魅力づくり室」を一元化し、2022年度、政策経営局に「シティプロモーション推進室」(以下、同推進室)を設置した。

同市が最も力を入れて訴求するのが「生活のしやすさ」だ。同市は民間調査の『住みたい街ランキング』などで常に上位に入るが、同推進室が他地域の人にイメージ調査をしたところ、ビジネスや商業、観光などのイメージはあるが、買い物のしやすさや医療機関の充実、治安のよさなど、生活にかかわる項目のイメージはあまりないことが分かった。一方で、市民に同市の魅力を調査すると、自然環境や治安のよさ、子育て環境が充実していることなどが上位に挙がった。

政策経営局シティプロモーション推進室の貝田泰史(かいだ・ひろし)室長は次のように説明する。

「調査の結果、本市に対する市外の人のイメージと本市民が感じている魅力にギャップがあることが明らかになりました。本市の強みである都市機能の高さやにぎわいについてはこれまで通りアピールしていく一方で、市外の人に『生活のしやすさ』の認知度を高める必要性を感じました。その中には子育てや教育も含まれます」

その後、居住につながる施策を打ったことによる拡充効果とも相まって、2024年度には再び人口の社会増が自然減を上回るようになった(図2)。

図2 横浜市の人口の増減
2021年度に人口減となったが、2024年度に再び人口増に転じた。
※横浜市の提供資料をそのまま掲載。

2.発信しなければよさは伝わらない

横浜市教育委員会(以下、市教委)が情報発信を積極的に行うようになったのは、中学校給食における施策がきっかけだった。2021年度に選択式の中学校給食(*2)を始めたが、以前行っていた「ハマ弁」(配達型弁当)のマイナスイメージが根強く残っていた。市としては、2026年度からの全員給食の実施を打ち出していたため、栄養のバランスや食育をしっかり考えた給食を提供していることを市民に伝える必要があった。しかし、市教委の職員は広報の知識や経験が少なく、多忙でもあったため、マイナスイメージを覆すための徹底的なプロモーションができていなかった。

*2 民間業者が調理して各学校へ配送する方式で、生徒や保護者が利用を選択できる。

そこで2023年2月、市教委に中学校給食のプロモーション担当を設置。同推進室などから職員が異動して、中学校給食のプロモーションを担当した。SNSや動画などで中学校給食の毎日の献立や栄養士の思いなどを発信するとともに、試食会を地道に開催し続けた。そして2025年度に、生徒の意見を取り入れながら給食を進化させるスタンスを打ち出し、新たに導入する保温性食缶による具だくさんのスープを保護者向けの給食試食会で参加者に試食してもらったところ、約92%が「とてもよい」「よい」と回答した。

そうした一連の取り組みを通じて、教育行政におけるプロモーションの重要性が市役所内で認識されるようになり、2025年4月、市教委の教育政策統括部に教育プロモーション担当を設置した。以前、中学校給食の広報を担当し、現在は教育プロモーションを担当する林豪(はやし・たけし)担当部長は次のように語る。

「中学校給食のプロモーションで実感したのは、教育現場には素晴らしい人材や取り組みが多いにもかかわらず、保護者を含む外部の人に、学校内のことを知る手段がほとんどないということです。学校や市教委がしっかり情報を発信すれば外部の評価は変わることを職員は目のあたりにし、市教委内のプロモーションに対する意識が前向きなものへと変化していきました」

3.分かりやすい動画を入り口に、詳細記事につなげる

市教委は現在、「学ぶなら横浜、教えるなら横浜」をキャッチフレーズに、子育て世代や教員志望者に向けて、学校の魅力や子どものチャレンジ、教員の思いなどを、SNSや動画、広報紙などの様々なメディアで発信している。

「全国的に教員が不足していますが、本市も例外ではありません。市外の教員志望者に本市で教える価値を感じてほしいと考え、子育て世代とともに教員志望者もプロモーションの対象としています」(林担当部長)

コンテンツの発信の仕方にも工夫を凝らす。まず、学校での子どもや教員の様子が分かる動画(写真1)を作成し、SNSや保護者用連絡アプリなどで配信。それを入り口として、SNSなどに掲載している詳細記事につなげるようにしている。

「いきなり文字ばかりの情報を提示しても、なかなか読まれません。まずは視覚に訴えやすい動画を配信した上で、それを見て興味・関心を持った人が詳細記事を読み、その後も継続的に情報を受け取ってもらうという流れを想定しています」(林担当部長)

写真1 ともに教員である夫婦の、子育てや学校で働く様子を伝える5分間の動画。残業時間や有休の取得率などのグラフも盛り込んだ。

動画はこちらからご覧いただけます。

また、保護者には保護者用連絡アプリ、教職員には校務連絡ソフトウェアを通じて直接、情報を発信している。

「学校の魅力やよさを保護者や教員が認識できれば、誇りを持って自分から発信するようになります。インナープロモーションの強化をアウタープロモーションにつなげていきたいと考えています」(林担当部長)

4.積極的な改革姿勢を打ち出し、信頼感を得る

発信するコンテンツでは、同市が力を入れている教育施策と連動させ、英語教育やインクルーシブ教育、ビッグデータの利活用、教育イノベーションのほか、学校現場で様々なチャレンジを行う教職員の姿や思いなどを紹介している。

例えば英語教育では、全市立学校にAET(Assistant English Teacher)を配置し、小・中学校間で切れ目なく、生きた英語力を育成する活動を行っている。また、そこで身につけた英語力を発揮する場として、課外プログラムやイマージョン教育(英語で他の教科を学ぶ授業)、海外留学支援などを充実させている。

未来の教育のデザインを共創する場としては、「横浜教育イノベーション・アカデミア」を2025年6月にスタート。55大学と連携し、学校、企業、教員志望者らが参加する取り組みを行っている。

それらの取り組みを林担当部長らが取材し、記事を作成して市教委の公式アカウント「ヨコエデュ!」で配信している(写真2)。

写真2 市教委の公式アカウント「ヨコエデュ!」
2025年2月に開設後、フォロワーは1,100人を超え、ページビューが1万以上の記事もある(2025年9月現在)。

「今、大きく変わりつつある時代に乗り遅れると、その後の教育活動に差がついてしまうという危機感を持っています。グローバル社会、AI社会をたくましく生きていける子どもたちを育むために、常に新しい施策にチャレンジし、それを市内外に広く発信する。それが市民からの信頼や本市で教えたいという教員志望者の増加につながると考えています」(林担当部長)

2025年度に実施した学校教員採用候補者試験では、12年ぶりに応募者が前年度を上回った(194人増)。また、小・中学生対象の「よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」も参加者が前年度より約7,000人増加。そうした成果を踏まえ、同市は今後もプロモーション活動に力を入れていく。

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