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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2025年度 Vol.2

学校が英語を使う必然性のある場をつくり、4技能の活動を主体的に展開
大阪府 大阪市立東中学校

2025/10/06 09:00

大阪市教育委員会(以下、市教委)は、4技能型外部試験を活用し、市立中学校における英語指導を改善するためのPDCAサイクルを確立。各校では、4技能型外部試験などで把握した自校の生徒の強みや課題を、市教委が開発した「英語指導チェックシート」で整理し、自校における具体的な授業改善へとつなげている。(詳細は本誌記事を参照)。本記事では、4技能を統合的に育成する授業に取り組む、大阪市立東中学校の渡辺尚也先生の実践を紹介する。

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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学校概要

設立 1988(昭和63)年
生徒数 813人
学級数 27学級(うち特別支援学級5、通級による指導[他校通級]開設数1)
教員数 57人

お話を伺った先生

主務教諭
渡辺尚也(わたなべ・なおや)

同校に赴任して6年目。英語科。

4技能型外部試験を軸に指導のPDCAサイクルを回す

大阪市立中学校の各校は、毎年10月に実施される、中学3年生対象の4技能型外部試験(大阪市英語力調査)を軸に、指導改善のPDCAサイクルを回している(図1)。

図1 4技能型外部試験(大阪市英語力調査)を軸にした英語教育のPDCAサイクル

4技能型外部試験を単なる学力測定のツールとするのではなく、英語科教員の指導改善を促すツールとして活用することで英語教育のPDCAサイクルを回している。

市教委では、前年度の4技能型外部試験の結果を精査し、生徒の英語力の到達状況や指導上の課題を分析する。そして毎年5月、英語科教員が対象の事前研修を実施し、英語教育の成果と課題を共有するとともに、教員一人ひとりが自校の実情に応じた指導改善の方向性を検討する機会としている。研修後、各校では英語科教員が今後1年間のうちに重点的に取り組む指導内容を検討し、「英語指導チェックシート(図2)」を使って整理した上で、授業を実践する。

図2 英語指導チェックシート(大阪市立東中学校)

年度当初に3年生担当の教員は、今年度に重点的に取り組むべき指導内容を、英語指導チェックシートを用いて技能ごとに明確化する。同シートには、各技能における実践的な指導法が選択肢としてあらかじめ列挙されており、教員は自身の指導の実態を踏まえて、自分が重点的に取り組むべき項目を技能ごとに2つ以上選択する。

既に重点的に取り組んでいる指導には△、今後、より重点的に取り組む必要がある指導には○を記入する。同シートの「結果→評価→改善」の欄は、10月に受験する4技能型外部試験の結果帳票を基に各校で記入。「目標→指導→評価→改善」というPDCAサイクルを可視化している。

10月には、1〜2学期の指導の効果検証として4技能型外部試験を実施。その結果を市教委が分析し、翌年の2月に市全体の成果と課題を全市立中学校に共有するとともに、効果的な指導や改善を要する指導などを学校ごとにフィードバックする。各校では、次年度の指導に向けた具体的な改善計画と指導目標を英語指導チェックシートに記入し、「目標→指導→評価→改善」というPDCAサイクルを、授業改善・指導力の向上につながるように可視化する。

2025年度は、初見の英文を読む力、英作文を書く力の育成に力を入れる

2025年5月、大阪市立東中学校の3年生担当の英語科教員は、「英語指導チェックシート」を使って自校の生徒の英語力の実態を整理した。前年度から重視している暗唱やリテリングについては一定の成果が確認できたが、今年度も引き続きそれらの指導に力を入れることとした。

一方、初見の英文を読む力や英作文を書く力が不足していることが分かったため、それらの力を新たに重点的に育成しようと考えた。

「現3年生にはこれまでの指導を通じて、『読む』『話す』については一定の力がついてきています。そこで2025年度は、『多様な英文に接する中でさらに読む力を伸ばす』『英文を書く力を伸ばす』の2点に力を入れることを、5月に『英語指導チェックシート』を活用する中で、学年方針として定めました」(渡辺先生)

その方針を受けて3年生担当英語科教員は、生徒が教科書に書かれている英文以外の英文に接する機会を増やすため、朝読書の時間に1人1台端末を活用した読解の時間を設けたり、自身の授業の中で定期的にライティング活動を行ったりしている。

9月に取材した渡辺先生の授業では、最初に生徒は授業で関係代名詞の主格(who,which,that)の文の構造について学び、その後は実際に関係代名詞を使った英文を作って、ペアで確認する活動が行われていた。

「授業で学んだことがコミュニケーションの場で使えたと実感できれば、生徒はさらに前向きに授業に取り組むはずです」(渡辺先生)

他者貢献の意識を持った上で4技能の活動に取り組む生徒たち

渡辺先生は授業の中で、「学んだことをほかの人のために生かす」「自分がしっかり学ぶことでほかの人の学びを充実させる」といった他者貢献の意識を生徒に持たせることも大切にしている。その具体的な取り組みの1つが、「Literature Circle(以下LC)」という4技能統合型の英語活動(写真)だ。

写真 Literature Circleの様子

英文を読んだ後、Summarizer→Illustrator→Connector→Questionerの順番で60〜90秒間ずつ英語で発表する。

LCはグループで同じ本を読み、どのように読んだかをグループのメンバー間で伝え合う読書活動。LCを英語の授業に取り入れることで、4技能を統合した英語活動が実現できると考えている愛媛大学教育学部の立松大祐教授からその授業法を学んだ渡辺先生が、2年前から自身の授業で実践している。

「授業では4人程度のグループをつくり、グループの各生徒に、英文を読んだ後の話し合いにおける役割を与えます。例えば、読んだ内容の理解を深めるための質問を作るQuestioner、読んだ内容を自分の生活や経験、身の回りの出来事とつなげて説明するConnector、読んだ英文の中の印象的な場面を描き、説明するIllustrator、読んだ英文についての要約を作るSummarizerなどです。生徒は自分の役割を果たすことで仲間の学びを支援するという他者貢献の意識を持った上で、まとまった分量の英文を読みます」(渡辺先生)

渡辺先生は現在の3年生が1年生の時から学期に1回ほど、主に単元の最後でLCを実施している。

「教科書に書かれている英文をグループで読む際、『教科書に書かれていない英文を書き足して、より面白い文章にする役割』『新出の単語や重要な文法事項について説明する役割』など、英文の内容に応じて私が様々な役割を設定することで、生徒の学びは当事者意識を持ったものになります。また、各グループから同じ役割の生徒を集めて、それぞれどんな質問を考え、説明したかを共有する機会をつくることで、生徒は視点や表現の多様性に気づくことができます」(渡辺先生)

英語が苦手な生徒が、英文の中の印象的な場面を絵などで表現するIllustratorを務めることで、英語を使ったやり取りに積極的に参加するようになることも少なくないと渡辺先生は言う。

「英語が苦手な生徒が、自分の描いた絵を指しながら頑張って英語で説明しようとしていると、同じグループの生徒が簡単な英語で質問して、言葉を引き出そうとしている場面をよく見かけます。みんなで英語を楽しもうという気持ちでグループがまとまる時、生徒は4技能を駆使し、さらにはジェスチャーなども交えながら互いにコミュニケーションを取ろうとするようになるのだと感じます」(渡辺先生)

英語力が向上した生徒たちにふさわしい活動を模索

LCを行うのは各学期に1回ほどだが、渡辺先生は、日々の授業でも生徒が他者貢献の意識を持って学習に取り組める工夫をしている。

例えば、前述の9月に行った関係代名詞の主格の文の構造を学ぶ授業でも、教科書に書かれている英文をもっと面白くするという目的の下、教科書には書かれていない英文を書き足してから、どんな英文を書いたのかを生徒間で共有する活動を行った(図3)。

図3 教科書に書かれていない英文を書くワークシート

教科書の内容をより面白くするための英文を書き足すという活動は、LCにおける役割の設定からヒントを得たものだ。2025年度は英作文を書く力の育成に力を入れたいという渡辺先生はその活動を積極的に授業に取り入れている。

また、リーディングでも、ペアになった生徒それぞれに異なる初見の文章を与えて読ませた上で、生徒は自分が読んだ内容を英語や日本語で相手に説明した後、文章を交換して読むことで、相手の説明の正確さなどを確認するといった取り組みもよく行っている。そのように、他者の学びを豊かにするために英語を使う場面をつくることで学びの必然性を高める工夫をしている。

今後、自身が取り組んでみたいこととして、渡辺先生はディスカッションとディベートを挙げる。

「これまでも、スピーチや英語劇などは自分の英語の授業で行ってきましたが、ディスカッションやディベートは中学生には難しいと考え、実践する機会をつくってきませんでした。しかし、4技能型外部試験の結果の通り、大阪市の子どもたちの英語力は確実に向上していますから、チャレンジしてみる価値は十分にあると思っています。4技能型外部試験を軸に、指導改善のPDCAサイクルを回して4技能をバランスよく伸ばしつつ、中学生が取り組みやすく、しかも他者への貢献意識を持って主体的に参加できるディベートやディスカッションを授業で実現したいと考えています」(渡辺先生)

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