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特集

事例4
学習の遅れと将来の進路に対する支援で 不登校生徒の自立を後押しする
ベネッセ高等学院中等部

2026/10/15 09:00

不登校児童生徒は「学習の遅れ」と「将来の進路」に特に大きな不安を抱く。そうした不安の解消に応えるため、2025年4月に開校したベネッセ高等学院。同年10月に併設された中等部は、学年をさかのぼって学習ができるデジタル教材や、クラス担任と赤ペンメンターによる支援、学問・仕事・社会を知る多彩なプログラムなどを通じて、子どもの自立を後押ししている。

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学校概要

ベネッセ高等学院は、ベネッセコーポレーションが運営する通信制サポート校。学習履歴のデータやアセスメント、アンケートによって、生徒の状況を客観的に把握した支援を行っている。また、探究学習の支援や総合型選抜に対応した指導も行う。併設の中等部では、フリースクールとして中学生を受け入れている。

設立 2025(令和7)年

生徒数 約1,030人

拠点数 29拠点(2027年4月に59拠点に拡大予定)

お話を伺った方

上木原孝伸(かみきはら・たかのぶ)

学院長
教育企業で講師等を務めた後、通信制高校に開校準備から参画。2024年度から現職。

将来につながる「自分軸」の形成を支援

ここ十数年で学校数や生徒数が増えている通信制高校。しかし、卒業生の進路未決定率は約26%(*1)に達し、追跡調査では大学進学者の約20%が中退している(*2)。そうした背景もあり、通信制高校での学習・進路指導の重要性が増す中で、2025年4月、通信制サポート校「ベネッセ高等学院」が開校した。上木原(かみきはら)孝伸学院長はこう語る。

「開校にあたっては、学習支援に加えて、将来につながる『自分軸』の形成が重要であると考えました。そこで本学院では、通信教育事業で培った『遠隔でも楽しく自律的に学べる』デジタル教材や、全国の高校で活用されている進路情報、企業や専門家と連携したキャリア教育などを提供しています」

開校直後から寄せられたのは、「中学生にも同様の学びの場がほしい」という保護者からの声だった。学習の遅れや将来の進路に大きな不安を抱く不登校生徒やその保護者からの期待が高かったことから、「学院の学びを一刻も早く届けたい」という思いで、同年10月にフリースクール「ベネッセ高等学院中等部」(以下、中等部)を併設した。

*1 文部科学省「令和7年度 学習基本調査」。

*2 新しい学校の会「第3回通信制高校卒業生アンケート調査報告」。

オンライン学習を出席扱いに

中等部での学習はデジタル教材を活用した自己調整学習が中心で、生徒はクラス担任と相談しながら自分で計画を立てて学習を進める。キャンパスは関東・関西を中心に現在29拠点(2027年4月には59拠点に拡大予定)あり、学習手段は通学かオンライン。生徒が自分の状況に応じて学習手段を切り換えることも可能だ。中等部は「出席扱い制度」(*3)に対応しているため、自宅でのオンライン学習でも「出席」(*4)とみなされる。

「教育機会確保法(*5)に示されている通り、学校・学校外にかかわらず子どもが場とつながることが重要であり、学校復帰のみをゴールとせず、子どもの自立を社会全体で支援していく必要があると考えています。しかし、民間利用や自宅学習などによる出席認定者数は全不登校児童生徒の約14%にとどまります(*6)。重要なのは、すべての子どもに教育の機会を確保することです。学びの多様化学校や校内支援センターなどにはそれぞれ特徴があり、すべての不登校児童生徒のニーズを満たせるわけではありません。自治体で難しい部分は民間が補えればと考えています」(上木原学院長)

デジタル教材は通信教育教材を基に、フリースクール用のものを開発。生成AIを活用し、解答から自動的につまずきの原因となっている単元までさかのぼって学習動画と演習問題を提示する。それによって、「分かる」から「できる」へと導くシステムを構築した。

「生徒が学校に行かなくなった時点までさかのぼって学べるようにしました。学齢が上がれば、以前は難しかった単元も分かるようになることがよくあります。学び直しに取り組む生徒から学習の意義を問われることがありますが、『小・中学校で学ぶ知識は、将来の自立した生活や社会で自分を守るために必須だよ』と、現実的な視点を伝えています」(上木原学院長)

*3 不登校児童生徒が学校外の施設で相談・指導を受けている場合や、自宅でICT等を活用した学習活動を行っている場合、一定の要件を満たせば学校は出席扱いにして、成績評価を行うことができる制度。

*4 出席扱いの最終的な認定は、学校長の判断で行われる。

*5 正式名称は、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」。

*6 文部科学省「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」。

クラス担任と赤ペンメンターが多面的に生徒を支える

自分軸の形成に向けては、多彩な体験型プログラムを用意。その1つがオンラインでも参加できる部活動・同好会だ。eスポーツ部は株式会社セガ エックスディーからeスポーツ大会の企画・運営を任され、軽音楽部は株式会社ヤマハミュージックジャパンからオンラインセッションツールなどの支援を受ける(写真)など、企業と連携した活動で生徒は「好き」を究めている。

「みらい発見プログラム」では、対話型で自分探しをする「自分発見講座」や、専門家・企業が自身の専門分野を伝授する「未来発見講座」、インターンシップを行う「リアルお仕事体験」などを実施。生徒がそれらの体験を通じて視野を広げ、自分のやりたいことを見いだす支援をしている。

写真 軽音楽部は基本はオンラインで集まって練習。文化祭に向けた練習ではスタジオに集まったが、対面で会うのはその日が初めてだった。

生徒の学校生活を支えるのが「クラス担任」と「赤ペンメンター」だ。クラス担任は、主に学習に関する質問や相談に対応し、生徒が日々の計画や振り返りを記録する「マイカルテ」などを見取って適宜声をかける。一方、赤ペンメンターは、毎週送る励ましの手紙や定期的な面談を通じて生徒を支援する。

「通信教育事業で培ってきた『生徒のよい点を見つけて褒める』ノウハウを持つ赤ペンメンターは、担任や保護者とは異なる『ナナメ』の関係で、生徒のよき伴走役になります。クラス担任には話しにくい悩みも、赤ペンメンターには打ち明けられるという生徒は少なくありません」(上木原学院長)

マイカルテでは、生成AIによる自動フィードバックを試験的に行ったところ、生徒の記入内容に対して生成

AIが学習の提案をした場合、生徒は意欲を高めたが、定型的な挨拶のみの場合は意欲を下げることが分かった。

「学習面の助言は生成AIでできる部分もありますが、感情を受け止める情緒的対応は人間ならではのものがあると再認識しました。生徒の本学院に対する満足度調査でも1位はクラス担任、2位は赤ペンメンターです。最も大切なのは人による支援なのだと実感しています」(上木原学院長)

スタートラインが異なる個々の子どもに合った手立てを

中等部は自治体と連携した不登校生徒支援も推進している。東京都新宿区との協働事業では、同区が導入している「ミライシード」(*7)を介して、中等部が運営するオンラインキャンパスに不登校の生徒が参加できるようにし、キャンパスのスタッフが学習支援をする環境を整えた。同区の校内教育支援センターにはカウンセラーは在籍しているが、教科学習の支援者が不足していたため、中等部との連携によって学習支援の拡充が図られた。

「従来の学校教育は全員が同じベースに立つ共通性を大前提としていましたが、不登校の子どもや特別な支援を必要とする子どもを始め、子どもそれぞれにスタートラインは異なります。子ども一人ひとりの状況や環境に合った手立てを用意して支援することが、教育における公正性であると考えています。環境の違いによって子どもの選択肢が狭められないよう、公的には支援が難しい部分は民間のリソースで補うなど、官民協働で『誰一人取り残されない公正な学びのプラットフォーム』を創ることを目指していきたいと思っています」(上木原学院長)

*7 協働学習、一斉学習、個別学習それぞれの学習場面で活用できる複数のアプリケーションで構成された、ベネッセのタブレット学習プラットフォーム。

生徒インタビュー

自分のペースで学べて、様々な体験もできる今が楽しい

ベネッセ高等学院中等部2年 ももなさん

今年の5月下旬から、ベネッセ高等学院中等部に通っています。ここでは自分で計画を立て、自分のペースで学んでいます。例えば苦手な数学は、15分間ずつ小分けにし、自分がやる気になったタイミングで、理解できるところまでさかのぼって学習しています。分からないところは学習動画を見たり、生成AIにヒントをもらったりして、その場で確認しながら学べるのがよい点です。一方、得意な英語は、好きな洋楽の歌詞の意味を調べるなど、自分の「好き」とかけ合わせて楽しく学んでいます。

以前の学校では周りに質問しづらく、「みんなに追いつかなければ」と常に焦っていました。でも今は、自分で計画を立てて学ぶことがとても楽しいです。自分で考えて取り組む方が、学んだことがしっかり身についているという実感があります。

学習以外の様々なプログラムにも参加しています。特にオンライン講座は種類が豊富で、お菓子メーカーの講座では新製品のアイデア出しを通じて発想の広げ方を学び、ウェルビーイングの講座では参加者と「幸せ」について語り合いました。対面で意見を言うのは少し苦手ですが、チャットなら思いを伝えやすく、周りの考えに触れることで刺激を受けています。先生や周りの人とかかわる中で、自分を認めてもらえていると感じられるようにもなりました。新しいことにも一歩を踏み出せるようになり、この夏は保育所でのボランティア活動に挑戦しました。将来は子どもにかかわる仕事がしたいと思い始めています。

自分に合った学びの場所と出合えて、今は毎日が楽しいです。選択肢がいろいろあれば、自分に合う学び方や場所を選ぶことができます。そうすれば、私のように自分で前に進める生徒がもっと増えると思います。

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.2
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